「ところで、走ったり木登りをしない私は私と言えると思う?」

「それはリアではないですね。普通のご令嬢ですよ」

「あまりの即答に驚いたわ! まぁ、そうよね……。そこがヒロインと違う行動をしていた箇所よ」

「……あぁ、それならばゲームの中に俺がいないのも納得ですね。俺と出会ったときのリアはそれはそれは──」

「それ以上は言わないで」


幼かったころ、私は何も考えずに木登りをして遊んでいた。

仮に木から落ちて怪我をしたとしても、私の治癒能力できれいに治せるものだったから、誰にも気が付かれなかった。

それにそういう遊びをするときは、周りに人がいないかよく確認していたからだ。


けれど、ルイと初めて出会ったときは違った。

私が慣れない“仕事”が嫌になって抜け出し木の上で遠くを眺めていたとき、偶然ルイも私の木に登ってきたのだ。

お互い顔を見たときは驚いたものだった。

ルイはまさか先客がいると思っていなかったからだろうし、私も同じ木に登ってくる偶然なんてあると思わなかったから。


当たり前のことだけど、ルイは最初私のことを公爵令嬢だと知らなかった。

念の為にと私は名前しか教えていなかったし、木登りするような娘を公爵令嬢だなんて判断できるわけがなかったからだ。


だから、私たちは対等に遊ぶことができた。

ただそれもあまり長く続くこともなかったが。