洋介side

コンコン

控えめにドアを叩く音で、資料から視線を外す。

こんな時間に誰だ?


「はい、どうぞ」


今は5限の真っ只中で、ほかの先生達も今の時間は自分の持ち場にいるはずだ。俺に聞くような案件はなかった筈だが。


カチャリ


「やっほーよっちゃん。」


・・・・・・・・


無表情で、ひらひらと手を振るアユがそこには立っていた。


「お前なあ・・・今授業中だぞ。」

「うん、知ってる。けど今日ずっと寝てたし、それもいつものことでしょ?よっちゃんなら知ってるじゃん。」


しゃあしゃあとサボり宣言してドカっとふかふかのソファに座ったアユ。


「仮にも校長の前だぞ・・・?まぁいい。どうした。」

「今更でしょそんなの。あーそうそうお腹減ったんだけど、何かない?ここなら何か置いてるでしょ?」

真っ黒の瞳が、早くご飯を出せとばかりに俺をじっと見つめる。
きれいな瞳だなんて的外れなことを思いながら談話室に向かいアユの好きな梅のおにぎりとお茶を持って校長室に戻る。

「ほれ、お前梅のおにぎり好きだったろ。」

手渡すと、わかりづらいが少し表情が緩み。「アリガト」と受け取った。


黙々と食べるアユを見ながら、昔から猫みたいなやつだったなとなんだか懐かしい気分になった。・・・・・・そんな昔のことじゃないのにな。

昔から猫みたいな気分屋で、自由奔放だったが今とは確実に違うなとも思う。前はちゃんと“表情”が“感情”があった。

アユが始めてあそこに来たときも今のようにソファーに体育座りをして、丸くなりながらおにぎりを食べていた。ただひとつ違うのはおいしいと、微笑む笑顔があったこと。

“あの事”を思い出して苦い気持ちになっていると


「ねえよっちゃん。ウチに転校生とかきた?」

「ん?・・・あぁ、今日から二人な。兄弟が来たぞ。
てか、うち一人はお前のクラスじゃなかったか」

急に現実に戻されながら、振られた転校生のことを頭に浮かべた。

「あ~~やっぱりか。どうりで見たことないと思ったわ。」

「は?どういうこった?」

「私朝からずっと寝てて、麦ちゃんの授業で一回起こされたんだけど出された問題解いたあとまた寝ちゃって。ここに来る途中に外見たんだけど、見たことない黒髪がクラスメイトに混じってたから。・・・やっぱり知らない人だったのか。」