秋体初日。
開会式後にすぐに永徳高校の試合が始まる。
初戦は夏でも勝つことができた西岡高校。
安心してはいけないけど、みんな少し落ち着いていた。
「優勝するためには、地道に勝っていくしかない。
初めての試合のやつもいるかもしれない。
けど、今まで練習してきたことを出していけば大丈夫だから。
絶対勝つぞ!」
部員19人が輝さんを真ん中にして囲っていた。
その中で輝さんは部員にそう声をかける。
いつ見てもこの円陣はカッコイイ。
「輝さん。」
私はベンチに戻ってきた輝さんに声をかけた。
「ん?」
私はスポドリの入ったコップを渡し隣に座った。
「腰、どうですか?」
私はまわりに聞こえないように小さな声で輝さんに聞いた。
「寝たら治ったよ。
だから、内緒にしてくれって言ったの。」
輝さんは優しい顔でそう答えてくれた。
「よかった、です。」
でも、そんなの嘘だった。
輝さんの表情は確かに昨日より辛そうだった。
もう、どうすればいいんだろう…
やっぱり正解が分からない。
「大丈夫だって、本当に。」
輝さんはそういい、帽子を被ってグラウンドに出た。
輝さんがそう言ってるんだ。
私は信用しよう。
私もベンチを出た。
「プレイボール。」
審判の声が球場に響いた。
始まる。
1回表。
西岡高校の攻撃。
永徳高校は守備についた。
矢本さんは何球か練習を始めた。
その球を受ける度、輝さんの表情は一瞬だけ歪み、すぐに元に戻る。
「1番、ショート柳井くん。」
いよいよ始まった。
一番バッターは三振で抑えた。
続く二番はピッチャーゴロ。
「3番、センター山本くん。」
去年はこのバッターにホームランを打たれてしまった。
多分、西岡高校の中では一番強いバッターだと思う。
一球目、ストライク。
二球目、ストライク。
次のストライクで1回は終了。
その時だった。
矢本さんの投げた球を輝さんがキャッチした。
そのまま輝さんは横に倒れてしまった。
「七瀬っ!」
矢本さんが急いで輝さんの元へと走った。
輝さんは腰を押さえていた。
やっぱり、ダメなんじゃん。
私は輝さんの元へ行こうとした。
「お前はだめだ。」
でも、監督に止められてしまう。
助けに行きたいのに…
私はなにもできない…
そう悩んでいると担架で輝さんが運ばれてきた。
「ごめんなさい、俺…」
「いいから、お前はとにかく治療に専念しろ。」
輝さんはそのまま治療室に運ばれて行った。
その時、輝さんと目が合った。
その目には光がなく、いつも通りの輝さんはいなかった。
「結城。今お前がやるべき事は今日の試合を無事に終わらせることだ。
七瀬が心配なのは分かるが、今は試合に集中しろ。」
「はい。」
輝さんの代わりに2年生の川上くんが入り試合が再開した。
1回危ない感じはあったが、6-0で勝つことができた。
でも、部の雰囲気は良くはなかった。
その中で車椅子に乗った輝さんがやってきた。
「輝さん…」
「みんな、ごめん。」
輝さんは座ったまま頭を下げていた。
「そうだよ、七瀬。
こんな大事な日に。」
「ま、でも大丈夫そうでよかったよ。」
部員達は輝さんを励ますように明るく声をかけた。
確かに、笑顔はある。
でも、こんなの空元気だ。
「七瀬。
今回は勝てたからよかったけど。
ちゃんと話せよ。」
「すみません、気をつけます。」
今日はそのまま解散になった。
「まじバカだよな。
早く言えよ。」
矢本さんが輝さんの車椅子を押している。
私はその2人の少し後ろを歩いていた。
合わせる顔がないから。
矢本さんにも、輝さんにも。
「結城。
お前、七瀬連れて帰れる?」
「え。
あ、大丈夫です。」
「あ、じゃあ任せる。
じゃあな。」
いつもの分かれ道で私たちは別れた。
「結城、ごめんな。」
「いえ。」
私は矢本さんから車椅子を受け取り押した。
「私は、これでよかったんでしょうか。」
輝さんは答えてくれなかった。
「考えたんです。
私が言わなかったら、輝さんが一生野球出来なくなっちゃうんじゃないかって。
でも、私には分からなかった。」
輝さんは前を向いているから表情は分からない。
光さんは今どう思ってるんだろう。
「結城。」
輝さんの声は震えていた。
私は車椅子を端に停め、輝さんの前に回った。
「あ。」
輝さんは泣いていた。
膝の上に乗った両手は強く握られていた。
「試合には出たかった。
迷惑かけることも分かってた。
でも、俺の判断は間違いだった。」
輝さんは泣きながら話を続けた。
「俺、主将失格だな。」
輝さんは引きつった笑顔を私に向けてくれた。
「なんでですか…」
そんな輝さんの笑顔に胸が苦しくなった。
「え?」
「なんでもないです。」
私は車椅子を押して歩き始めた。
輝さんの背中はいつもよりひとまわりもふたまわりも小さく見えた。
輝さんにとって私はどう映っているのだろうか。
私ばっか…
私ばっかり輝さんに相談乗ってもらって。
私ばっかり輝さんに勇気をもらって。
それなのに、私は輝さんになにもできていない。
今回だって、輝さんを助けることができなかった。
輝さんは1人で悲しみ、この気持ちを1人で抱え込むんだろう。
「着きました。」
「ああ、ありがとう。
じゃあ、またな。」
「はい。」
私は輝さんのお母さんに車椅子を渡し帰って行った。
私じゃダメなのかな。
輝さんにとってきっと私はただの後輩。
ただのマネージャー。
そう、ただの………ね。
「なんで、好きになっちゃったんだろう。」
自然と涙が零れてきた。
一歩歩くと1粒零れ。
もう1歩歩くとまた1粒。
あーあ。
明日から部活行くのイヤだな。
開会式後にすぐに永徳高校の試合が始まる。
初戦は夏でも勝つことができた西岡高校。
安心してはいけないけど、みんな少し落ち着いていた。
「優勝するためには、地道に勝っていくしかない。
初めての試合のやつもいるかもしれない。
けど、今まで練習してきたことを出していけば大丈夫だから。
絶対勝つぞ!」
部員19人が輝さんを真ん中にして囲っていた。
その中で輝さんは部員にそう声をかける。
いつ見てもこの円陣はカッコイイ。
「輝さん。」
私はベンチに戻ってきた輝さんに声をかけた。
「ん?」
私はスポドリの入ったコップを渡し隣に座った。
「腰、どうですか?」
私はまわりに聞こえないように小さな声で輝さんに聞いた。
「寝たら治ったよ。
だから、内緒にしてくれって言ったの。」
輝さんは優しい顔でそう答えてくれた。
「よかった、です。」
でも、そんなの嘘だった。
輝さんの表情は確かに昨日より辛そうだった。
もう、どうすればいいんだろう…
やっぱり正解が分からない。
「大丈夫だって、本当に。」
輝さんはそういい、帽子を被ってグラウンドに出た。
輝さんがそう言ってるんだ。
私は信用しよう。
私もベンチを出た。
「プレイボール。」
審判の声が球場に響いた。
始まる。
1回表。
西岡高校の攻撃。
永徳高校は守備についた。
矢本さんは何球か練習を始めた。
その球を受ける度、輝さんの表情は一瞬だけ歪み、すぐに元に戻る。
「1番、ショート柳井くん。」
いよいよ始まった。
一番バッターは三振で抑えた。
続く二番はピッチャーゴロ。
「3番、センター山本くん。」
去年はこのバッターにホームランを打たれてしまった。
多分、西岡高校の中では一番強いバッターだと思う。
一球目、ストライク。
二球目、ストライク。
次のストライクで1回は終了。
その時だった。
矢本さんの投げた球を輝さんがキャッチした。
そのまま輝さんは横に倒れてしまった。
「七瀬っ!」
矢本さんが急いで輝さんの元へと走った。
輝さんは腰を押さえていた。
やっぱり、ダメなんじゃん。
私は輝さんの元へ行こうとした。
「お前はだめだ。」
でも、監督に止められてしまう。
助けに行きたいのに…
私はなにもできない…
そう悩んでいると担架で輝さんが運ばれてきた。
「ごめんなさい、俺…」
「いいから、お前はとにかく治療に専念しろ。」
輝さんはそのまま治療室に運ばれて行った。
その時、輝さんと目が合った。
その目には光がなく、いつも通りの輝さんはいなかった。
「結城。今お前がやるべき事は今日の試合を無事に終わらせることだ。
七瀬が心配なのは分かるが、今は試合に集中しろ。」
「はい。」
輝さんの代わりに2年生の川上くんが入り試合が再開した。
1回危ない感じはあったが、6-0で勝つことができた。
でも、部の雰囲気は良くはなかった。
その中で車椅子に乗った輝さんがやってきた。
「輝さん…」
「みんな、ごめん。」
輝さんは座ったまま頭を下げていた。
「そうだよ、七瀬。
こんな大事な日に。」
「ま、でも大丈夫そうでよかったよ。」
部員達は輝さんを励ますように明るく声をかけた。
確かに、笑顔はある。
でも、こんなの空元気だ。
「七瀬。
今回は勝てたからよかったけど。
ちゃんと話せよ。」
「すみません、気をつけます。」
今日はそのまま解散になった。
「まじバカだよな。
早く言えよ。」
矢本さんが輝さんの車椅子を押している。
私はその2人の少し後ろを歩いていた。
合わせる顔がないから。
矢本さんにも、輝さんにも。
「結城。
お前、七瀬連れて帰れる?」
「え。
あ、大丈夫です。」
「あ、じゃあ任せる。
じゃあな。」
いつもの分かれ道で私たちは別れた。
「結城、ごめんな。」
「いえ。」
私は矢本さんから車椅子を受け取り押した。
「私は、これでよかったんでしょうか。」
輝さんは答えてくれなかった。
「考えたんです。
私が言わなかったら、輝さんが一生野球出来なくなっちゃうんじゃないかって。
でも、私には分からなかった。」
輝さんは前を向いているから表情は分からない。
光さんは今どう思ってるんだろう。
「結城。」
輝さんの声は震えていた。
私は車椅子を端に停め、輝さんの前に回った。
「あ。」
輝さんは泣いていた。
膝の上に乗った両手は強く握られていた。
「試合には出たかった。
迷惑かけることも分かってた。
でも、俺の判断は間違いだった。」
輝さんは泣きながら話を続けた。
「俺、主将失格だな。」
輝さんは引きつった笑顔を私に向けてくれた。
「なんでですか…」
そんな輝さんの笑顔に胸が苦しくなった。
「え?」
「なんでもないです。」
私は車椅子を押して歩き始めた。
輝さんの背中はいつもよりひとまわりもふたまわりも小さく見えた。
輝さんにとって私はどう映っているのだろうか。
私ばっか…
私ばっかり輝さんに相談乗ってもらって。
私ばっかり輝さんに勇気をもらって。
それなのに、私は輝さんになにもできていない。
今回だって、輝さんを助けることができなかった。
輝さんは1人で悲しみ、この気持ちを1人で抱え込むんだろう。
「着きました。」
「ああ、ありがとう。
じゃあ、またな。」
「はい。」
私は輝さんのお母さんに車椅子を渡し帰って行った。
私じゃダメなのかな。
輝さんにとってきっと私はただの後輩。
ただのマネージャー。
そう、ただの………ね。
「なんで、好きになっちゃったんだろう。」
自然と涙が零れてきた。
一歩歩くと1粒零れ。
もう1歩歩くとまた1粒。
あーあ。
明日から部活行くのイヤだな。
