輝ける場所

明日に向けて今日も練習が始まった。
昨日よりも少しピリピリしている。
どこかできっと焦りがあるんだろう。
それを落ち着かせるのもマネージャーの仕事なのに、私は何もできない。
ただ、こうやっておにぎりを作ることしか…

「まーたネガティブな事考えてるでしょ、希空ちゃん。」

3年生のマネージャーの橋本美優(ハシモトミユウ)さん。
美優さんは私のことはなんでもお見通しだった。

「大丈夫だよ、希空ちゃんは考えすぎ。
ほら、おにぎり届けに行こ。」

「はい…」

美優さんに連れられ私は練習中の部員の所へ向かった。
美優さんとは初めは険悪だった。
私の方が年下なのに、記録員に選ばれてしまったから。
でも、今ではきっと誰よりも仲がいい。

「はーい、おにぎりできたよ。」

美優さんが叫ぶと、みんなが走っておにぎりの元に走ってくる。
あんなにピリピリしていたのに、おにぎりの効果でみんなは笑顔だった。

「ほらね、言ったでしょ?」

美優さんはドヤ顔でそう言った。

「はい!」

おにぎりを食べ終わった部員たちはまた練習。
でも、食べる前とは違い、みんなピリピリしたムードはなく、もっと集中していた。
恐るべし、おにぎりパワー。


「よーし、矢本、結城、帰ろー。」

今日は明日から始まる大会のため、いつもより2時間早く終わらせてくれた。

「おう。
結城も、早くこーい。」

「はーい。」

私はいつも通り、右に矢本さん、左に輝さんと挟まれて歩き始めた。
明るいのにこうやって一緒に帰ってくれるなんて、本当に優しすぎる。

「じゃ、明日から頑張ろうな。」

途中で矢本さんと別れ、ここから10分ほど輝さんと2人だけになる。
左の輝さんを見てみた。
すると、いつもと少し様子が違った。
バッグの持ち方とか、歩き方とか。

「あの、輝さん。」

「ん?」

いつもなら笑顔で答えてくれる。
今日も確かに笑顔だった。
でも、いつもと何かが違う。

「大丈夫ですか?」

「なんだよ、急に。」

「いや、なんかいつもと違うなって。」

「そんなことないよ。
ほら、家ついたよ。」

気づけばもう家の前に着いていた。
なんてタイミングの悪い…

「明日、寝坊すんなよ。
じゃあなっ。」

「あっ、」

輝さんは私の声など無視し帰って行った。
やっぱり変だ…
歩き方もおかしいし。
腰を庇うような…って、いつから!?
昨日は普通だったし、お昼の前も。
私は不安になり、急いで輝さんの元へと走った。

「輝さんっ!」

私は輝さんの前に立った。
輝さんはビックリしていた。
そりゃそうか。
私が走ってくるんだもん。

「もう、どうした?」

「腰、痛めたんですよね?」

そう聞くと輝さんの顔は一瞬曇った。
でも、すぐに笑顔で頭をかきながら、

「そんなわけないだろ。」

とそう言った。
でももう騙されない。
輝さんのこと、いつも見てきた。
だから分かるんだ。
頭をかいてるときって、嘘をついている時だって。

「嘘です。」

「嘘じゃない。」

「嘘です。」

「だから違うってばっ!」

輝さんが野球以外で声を荒らげたのは初めてだった。

「あ、ごめん。」

輝さんはやっちまった感で下を向いた。

「私じゃダメですか?」

私は輝さんの手を握った。
両手でギュッと。

「ダメじゃ、ない。」

輝さんも握り返してくれた。

「ごめん。
俺、今日腰痛めたっぽい。」

私の手には1粒の水が落ちてきた。
雨ではない。
輝さんの涙だった。

「こんな大事な時期にって。
でも、大したことないから。
みんなには内緒にして。」

私には正しい結果が分からなかった。
輝さんがこの日のために頑張ってきたのは知っている。
だからこそ、出てほしい気持ちはある。
でも、そのせいで下手すると輝さんは一生野球のできない体になってしまうかもしれない。

「分かりません。」

「え?」

私の手にはもう1粒水が落ちてきた。
それは自分の涙だった。

「正しい答えが、分かりません。」

私は涙が止まらなかった。

「ごめん。
とりあえず、内緒にしといてほしい。
じゃあな。」

輝さんは私の頭を2回ほど叩き帰って行った。
私はとりあえず約束通り内緒にしていくことにした。
これがどんな結果になるかなんて分からず…
自分で判断出来ないなんて、本当に私は弱い。