輝ける場所

11月。
主将の輝さんが帰ってきた。
1ヶ月前は車椅子だった輝さんも、今は普通に歩いていた。
それでもまだ少しだけ腰を庇うような歩き方をしていた。

「この冬のお前らの気持ち次第で来年の甲子園はかかってる。」

冬には大きな大会はない。
どの学校もこの時期に力をつけ、次の甲子園に向けて備えている。
監督の話に、みんなは顔つきを変えて耳を傾けていた。

「来年こそ、このチームで優勝したい。
こんな状態の俺がこんなこと言っていいのか分からないけど。
みんなで一緒に辛い練習も乗り越えていこう。
俺も、早く治るように努力するし、できる限りみんなのこと支えていくから。」

輝さんの目は真剣だった。
怪我する前の輝さんと比べて、もっと頼りやすい主将になっていた。
それには他のメンバーもなんとなく感じていたと思う。
みんなの輝さんを見る目は今までとは違い、本当に信頼しているように見えた。
輝さんが帰ってきたことにより、永徳高校野球部はまた団結力を強めていた。

今日は、過去の自分たちの試合を見て、自分たちになにが足りないのかを話し合った。
これは、私達の部活ではよくやる方法だった。
闇雲に練習したって意味がない。
自分の苦手なことに気づき、それに対してどう練習していくのかを考えることも大切だと、5年前から始まったものだった。
これを始めてから、永徳高校はどんどん強くなったと言われている。
午前中は自分たちの試合を見て、強い学校の試合を見て、足りないところや弱い所をどんどん見つけていく。
監督やコーチにも助言をしてもらいながら紙に書き出していった。
午後は攻撃と守備の2つのチームに別れて、練習メニューを考える。
午前に見つけたことをみんなで出し合い、それにあった練習方法を探していく。
私たちマネージャーはその間、飲み物を出したり、テープの再生の手伝いをしている。
最終的に監督とコーチに紙を渡し、2人に決めてもらう。

「今年は案外すんなり決まったな。」

監督はそう言いながらみんなに練習メニューを紙にまとめたものを配った。

「明日から始めるぞ。」

「はい。」

今年は去年とは違い、守備力をあげる練習メニューに力を入れていた。
確かに、今までの試合では中継が乱れることが多々うすてあり、それで点数を取られてしまうこともあった。
でも、打撃力をあげるメニューにも見たことのない練習方法もあって。
メニュー表だけ見たら、強くなれそうな感じがした。

「今日は解散。
マネージャーは少し残ってくれ。」

「はい。」

矢本さんと輝さんには先に帰ってもらうよう伝え、美優さんと一緒に部室へ向かった。
中に入ると、監督とコーチが待っていた。

「ごめんな、疲れてるのに。」

「いえ、それは大丈夫ですよ。」

美優さんは、ねっ、て言いながら私の方を見てくれた。

「はい。」

私がそう答えると、監督が話し始めた。

「俺が2人を残したのは、相談事があってな。」

監督とコーチで顔を見合わせていた。
なかなか話してくれない2人に、私はなぜかどんどん不安になってきてしまった。
もしかして、記録員を私じゃなくて美優さんにするってことなのかな。
確かに、美優さんの方が選手を支える力があるし。
そんなこと考えていると、

「あのな、お前達に大事なお願いがあるんだ。」

と、監督が話し始めた。

「今回の大会、敗因には選手の精神面もあったと思うんだ。
高橋は練習で、スタンドで。
結城は練習で、ベンチで。
それぞれしっかり選手の精神面も支えてくれた。
でも、いくら2人がそうやって陰ながら支えてくれても、グラウンドで精神的に苦しくなったって、2人はグラウンドに駆けつけられない。
そこでだ、2人には選手の精神面を鍛えてあげてほしい。
やり方は2人に任せる。
じゃ、解散。」

それだけ伝え、監督とコーチは部室を出ていった。
正直、混乱していた。
もう少し説明して欲しかった。

「希空ちゃん、大丈夫?」

「え?」

「いや、相当辛そうな顔してたから。」

「あ、」

「大丈夫よ。
2人で頑張ろう。
とりあえず、今日は一旦家に帰ろ。
家着いたらLINEするから、そこで少し話し合おう。」

「はい。」

美優さんと校門で別れ、私は久々に1人で下校した。
すごく大きな使命を任された気がした。
美優さんはああ言ってくれたけど、きっと美優さんも混乱していた。
私に何ができるだろうか…
ダメだ、分からない。

「あーもーっ!」

私は空に向かって大きく叫んだ。

「え、どうした?」

後ろから声が聞こえた。
声の主は矢本さん。
振り返ってみると、矢本さんと輝さんが立っていた。

「いやさ、校門で結城待っててさ。
出てきて、七瀬と声かけたんだけど全然気づかないから後つけてきたんだけど。
急に叫ぶからびっくりしたわ。
なあ、七瀬。」

「ああ。
大丈夫か、結城。
監督に嫌な事言われた?」

気づいたら私は2人に挟まれていた。

「いえ、ちょっと考え事を…
でも、大丈夫です。
心配しないでください。」

「ならいいけど。
ま、なんかあったらなんでも言えよ。」

矢本さんがそう言うと、2人は歩き始めた。
2人の姿を見て少し落ち着いた私は、やっぱり2人がいないとダメだなって改めて感じた。
私の精神面がこんなに弱いのに、選手の精神面を鍛えられるわけがない…
まずは、私が強くならなきゃ。

「早くしないと置いてくよ?」

輝さんが振り返って私にそう声をかけた。

「待ってくださいっ。」

私は2人のあとを追っかけ、挟まれて帰った。