ゆらゆらと、ロウソクの火が揺らめく。

「また、蛇神様もその人々を気に入っておりましたわ。

争いもせずに穏やかに生きていく人間なんて珍しいものでしたもの。

そこでは神と人、お互いに支えあって生きておりましたわ…

そう、とても素敵な所ですわ…」

懐かしげに、寂しげに話している店主。
その風景を想像すると、頬も緩む。

だが、私の手にある蛇神様の彫刻はそんなのを微塵も感じさせない…
まるで、何かと戦っているかのような…
そんな鬼気迫るものだ…


「ですがやはり、人間は強欲だったのですわ。

やがて戦が始まります。

世の人々は荒れ狂い、どの森も炎に包まれ、死肉の焼ける臭いが充満しました。


それでも蛇神様の護りは強かった…


鳥居から祠へ続く道には炎は迫ってこなかったのですわ。

人々はそこに逃げ延び、そして助かりました。


ですが、ここからが悪夢の始まりです。

なぜなら戦はまだまだ続く…

土や水はどんどん汚れ、人々は住めない環境から追い出されましたわ…

蛇神様はとても悲しんで居られましたわ…


あの活気は、あの暖かみは、あの和やかな日々は、一体何処に消え去ったというのだ、と…


人々が去った日から、長い年月が経ち、戦も落ち着きましたわ。

それでもその爪痕は残ってましたの。

汚れた土や水は汚れたまま、草木も芽吹かず、それはまるで死の山。

生きるもののいない山。

人も寄り付かぬ、ただ暗い山の中で蛇神様だけが静かに、そして狂っていきましたの…」


戦…
今の私達には関係の無い言葉…
それは何も生み出さないものだ。
だが…



この蛇神様は、
なんでこんなおぞましい姿になったのか、
何故か少しだけ羨ましく思った。