私の手の中にあるもの…

それは、
小さな蛇の置物。

掌に収まるサイズながらも、
鱗の模様や口を開いている蛇の細かい細工。
蛇の目にはとてつもなく赤い石が嵌め込まれている。
…そして、この蛇は頭は二つ、なのに体は一つなのだ。

なぜこれに惹かれたのだろうか…
だが、これを手に取らずには居られなかったのだ。


「お客様、とてもいい目をお持ちですのねぇ。その蛇神様の彫刻は何処を探してももうここにしか置いてありませんのよ?」


感心した様に店主は声を掛ける。

「え、そんなに珍しいものなんですか?」

もしや物凄く高いのでは…
冷や汗が出てくる…

「珍しいものです。今はもう影も形も残っておらぬ神社に祀られていた物忘ノ神の彫刻になりますわ。」

「ものわすれのかみ?それに今はもうないって…」

店主は店の一角にあるテーブルと椅子のセットに、
ほのかに花の香りが混ざるお茶とお茶菓子であろうクッキーを置いて手招きをしながら…

「まぁ、立ち話もなんですしよろしければ温かいお茶でも飲みながらお話いたしますわ。私の自慢の配分のお茶ですのよ。」

と、柔らかな笑顔を見せて言った。

話の続きも気になる…
それにあの笑顔を見て断れる人はいないだろう。

まるで光に惹かれる虫のような気分で、
私は椅子に腰掛けた。

「さてさて…どこからお話いたしましょう…この蛇神様についてお話するのは初めてだから上手に話せるか不安ですわぁ…」

そう言いながら店主はまたクスクスと笑う。
少し悪戯心を持った少女の様に…