ここはどこなのだろう…
確かに帰路を歩いてきたはずなのに、
辺りには今までに見たことがない街並み…
だがどこの家も明かりはなく、
まるでゴーストタウンだ。

もう暗くなるのが早い秋と冬の間
息を吐くと少しだけ白くなる…

「なんでったって帰り道で迷うんだよ…」

早く帰って暖かい部屋で一杯やりたい…
そう思い気持ちは足早に。

そんな中、少し歩いていくとほんのりと明るく光るものが見えた。

「こんな所に店か?」

なんの明かりも活気もない見知らぬ街中で、
その光は安堵と少しの不安を私の心に齎した。

近くまで来て看板を見上げると…

「九魂猫骨董品店…?」

変わった名前だな…
素直な感想はそれだけ。

店に入るかドアの前に佇んでいると…



ーカランカラン…



どこか懐かしく鼓膜に残るドアベルの音、
その音と共にドアが開く。

私は鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をして佇んでいた。
そうしたら…


「いらっしゃいまし、ようこそ九魂猫骨董品店へ。」


開いたドアから、少し低くゆるやかに響く声が。
何故だかその声に惹かれ店内に滑り込むように入っていく。


「あら、珍しや。久々の人間のお客様だわ。」

店内に入って目に飛び込んできたのは、
店内の奥、暗がりの中で話す一見男か女かわからない人物。

そして、天井まであるであろうガラス製の棚とその中に仕舞われている古く、だが美しい小物や飾りや本。
中には棚に入れられる大きさではない物が、棚の横や前に置かれている。

その中で一際私の目を引くものが、
一瞬眩しく瞬いたような気がした。

普通ならば、ホコリっぽいであろう部屋の空気も、
どこか柔らかな優しい匂いで包まれている。

どれもこれも古いはずなのに、何故か新鮮なのだ。


とてつもなく不思議な雰囲気に辺りを見渡していると…


「ふふ、とても変わったお店でしょう?」


ハッと我に返り、店主であろう人物を見る。

男か女か、奥から見れ分からなかった風貌だが、
細くも広い肩、闇夜の様に深く黒い艶やかな長い髪、艶やかながら気崩した着物から除く谷間、スラリと伸びる足、真珠の様な肌、
そして…髪の間から覗く大きく切れ長な目と赤い口紅のとても映える唇…

美しい…だがどこか冷たいものを感じる女性。


「あ…いや…道に迷いまして…」

そう口を開くのが精一杯、
こんな人を前にするのは27年生きてきて初めての私はその圧倒的な美しさを前にたじろんでしまう。

「あらまぁ、それは災難で…もしよろしければ少しお話を致しません?これも何かの縁でしょうに、なにか気になるものがあればお持ち下さいまし。先程のお客様の目、何かを欲している目をしておられましたから。」

クスクスと笑いながら店主は言う。
その言葉を聞き、
私、齋藤拓磨は店内の棚の中にある、
ある小物を一つ手に取った…