「いらっしゃい」


白いカッターシャツの上に黒のベストを着こなしたバーのマスターに迎えられた。


「バーボン」


カウンターに座りお決まりの物をオーダーすれば、「はい」と軽い口調で返事が戻り、スッと目の前にお絞りが差し出された。



「今夜は一人?」


自分よりも五歳年上だと言っていたマスターはニヤリと微笑んで聞く。

この店に来る時は一人だったり、他には弟妹達と一緒にも来るから問われたのだろう。


「ああ。まあ…」


語尾を濁すように返事をすると、ふ〜ん…と鼻で返された。


「……女待ちか」


ロックのグラスをコースターの上に置き、鋭い言葉を吐いてくる。
それに否定も肯定もせずにいると、そう言えばあの子はどうしてる?…と聞いてきた。


「新さんの病院に通ってる患者さんがいたろ。此処で酔っ払ってた女性」


「…ああ、アレな」


頭の中に浮かんでくるショートボブの顔にニヤつく。
俺の表情を確かめたマスターは何かに気付いても顔には出さず。


「あの子、時々オフィスの人と来てたんだよね。いつも楽しそうに此処で談義しててさ」