すべてが終わると、たちまち現実感が遠のいていった。
ただいつもと同じはずの家が、恐ろしく広く、そして静かだった。
 日常は動き出した。
兄は東京へ戻り、「暫くは休んだら」と言う周りの言葉を遮り母は早々に出勤した。
木目込み人形を少し教えている祖母も、昼間はきちんと縁側にこもるようになった。
 祥子だけが、動けなくなった。
 電気ストーブの前で膝を抱えて、少し考えたり、少し泣いたり、
ジグソーパズルをしたり、仁美からの手紙を読んだり、
また少し泣いたりして、一日を過ごす。
同じ場所で、おなじ姿勢で。
黒のベロアの足首まであるロングスカートは暖かだけど、
肉の落ちたお尻の骨が、ごつごつと床にあたってクッションをあてても痛い。
食べ盛りで五十キロ近くあった体重は、三十八キロまで落ちていた。