四日目の夜、ホテルの部屋に戻ると、
突然もやもやとした苛立ちが、胃の裏側から表面をなぞるように、
湧き上がってくるのを感じた。
戸惑いや悲しみを、やっと認識できた途端、
それは待っていたかのように祥子に覆い被さった。
 自分の思い通りにならない時のどうしようもない腹立ち。
偶然会った古い友人のように、久しぶりにやってきたその感情を祥子は見つめる。
泣き叫んで、手足をばたつかせて駄々をこねれば、
父は仕方なく起き上がって頭を撫でてくれるのではないか。
―なんだ、どうしたんだ祥子は。いいじゃないか、そうしてやりなさい、ママ。
そう言って抱き上げてくれる腕は、本当にもうないのだろうか。
「悲しみで気を失ってしまえたら楽ね」
昨日百合子ぽつりと言った言葉を思い出す。
 祥子は途方に暮れる。
押し通せない我が侭を、生まれて初めて胸に抱えて。
 思えば途方に暮れたことさえ、今まで一度もなかった。