冷たい夜風が心地好かった。
夏休みにバースデープレゼントとして父に買ってもらったルビーのピアスは、
肩までの柔らかい髪をその風が揺らす度、
控えめに姿を覗かせては、祥子の上気した頬を一層明るく見せる。
 四角くカットされたルビーを四つの金で支え、横に二回り程小さいダイヤがぽつんと付いていて、丁度極小さな亀のようにも見えるこのピアスを一目見た時、
祥子はどうしても自分の物にしたいと強く思った。
そして同時にその気持ちがとても祥子を嬉しがらせた。
勿論父は買ってくれるし、何でも好きなものを選びなさい、と言われて物色しているその時に、心から欲しくてたまらない物に出会えるということは稀であり、
素晴らしいことなのだ。
祥子にとって好きな人に何かを買ってもらう時、その点は極めて重要だった。
「おう、悪いな」
振り向くと、懐かしい礼二郎の姿があった。
月に何度かは会い、毎日のように電話で話をしているのに、どうしてか礼二郎の顔を見ると、いつもとても懐かしいと感じる。祥子はにっこり微笑むと、手にしていた紙袋を差し出した。
「遅いよぉ、凍えるトコだった」
本当はちっとも待ち時間を苦になどしていなかったが、そんな言葉を口にする。