そこにいたのは、スーツ姿の男だった。

まるで紳士だなと、豪は彼にそんな印象を抱いた。

「はい、そうです」

豪が返事をすると、男はかぶっていた帽子を脱いだ。

「初めまして」

形のいい唇から、低音が発せられた。

「伊崎豊海と申します」

男――伊崎は、豪に自分の名前を言った。


伊崎に連れて行かれるように、豪は近くの喫茶店に入った。

「あの…」

優雅な仕草でホットコーヒーを飲んでいる伊崎に、豪は話しかけた。

「あなたは、一体…?」

そう聞いた豪に、伊崎はカップをソーサーのうえに置いた。

「ひかるさんに振られた者です」

そう言った伊崎に、
「ひかるちゃんのことを知っているんですか?」

豪は驚いて聞き返した。