「てっきり僕は、サナギちゃんと二人きりかと思っていたのに……」

「……立川さん、村山のことは無視しよう」

「そうですね」


まだぶつぶつ文句を言っている村山さんを切り捨てて、小林さんと二人歩を早めた。


「って、ええ?! 置いていかないでよ!」


このようなやり取りを見るのも今日で最後だと思いながら横断歩道を渡っていると、小林さんが感慨深そうに口を開く。


「立川さんが村山と仲良くやれてよかったよ」

「仲良くって……」


もしや何か感づかれたのかと内心ヒヤッとしたが、そうではないらしい。


「最初所長は立川さんを俺のところに付けようって言ってたんだけど、村山にとっていい機会だと思って変えてもらったんだ。
……ほらここ、新しい人は滅多に来ない職場だから」

「そうだったんですね」


初日に言われた席は、その場のノリで決めたものではなかったらしい。きっと村山さんもそのことは知らないだろう。後輩思いの小林さんの行動を聞いて、胸が熱くなる。


「立川さんのお陰で、最近の村山は責任感が増した気がするんだよな……まあこれは、先輩の欲目だけど」


どことなく嬉しそうに話す小林さんに、思わず口元が綻んだ。