「立川さん、昨日はどうだった?」


昨日取ったメモの整理をしていると、中村所長に声をかけられた。顔を上げると、にこにこと笑顔で私の様子を窺っている。


「はい、とても勉強になりました。でも、すごく緊張しちゃって……」


後半段々と声が小さくなってしまったのは、昨日の顧客訪問でのことをはっきりと思い出して恥ずかしくなったからだ。
小林さんに同行させてもらった初めての外出は、想像以上に緊張した。三つの会社へ訪問したのだが、どれも挨拶をすることが精一杯で終わってしまったくらい、緊張した。

……到着する前の、移動中の車の中まではあんなに楽しかったのに。


「挨拶もちゃんとできてたし、良かったですよ」


私が後ろ向きな発言をしてしまう前に、話を聞いていた小林さんがフォローしてくれた。


「最初の訪問先で応接室に通されたから、緊張したんだよな?」

「はい」


確認するように尋ねられて、私は何度も頷いた。


・・・・・

ーーことの発端は、最初の訪問先だった田辺事務器という会社だ。私たちが到着するやいなや立派な白髪の威勢の良い男性に応接室へ連れて行かれ、驚くほどのもてなしを受けたのだ。良い香りのする紅茶に、お茶請けのケーキまで出されてしまった。

隣で、出された紅茶を平然と飲んでいる小林さんに、私は震える声で尋ねた。