「金属アレルギー?」


小林さんは意味が解らないといった様子で繰り返した。


「多分違うと思うけど……毎日時計を付けていても何ともないし」


それを聞いて、小林さんの腕時計が金属製だったことを思い出した。ハンドルを握っている左手を確認すると、重厚感のあるそれが今日も手首にバッチリ鎮座している。


(ということは、やっぱり結婚はしてない……?)


私は小林さんに気付かれないように、とても遠まわしに回りくどく詮索してしまったのだ。指輪もしていないし、全く家族の話題も出ない。もしかしたらアレルギーで付けられないだけなのかも、と念のため聞いてみたが、今の口振りからどうも違うようだ。
このやり取りで小林さんが既婚者ではないと確信した私は、少しだけ安堵していた。
ーーこの後の展開を予想すらできないまま。


「立川さん、金属アレルギーなんだ?」


こんな突拍子もない私の話にも適当にあしらったりせずに付き合ってくれる小林さんは大人だな。そう考えていると、今度は矛先が私に向いてしまった。まさかブーメランのように同じことを尋ねられるとは思っていなかったため、内心焦っていた。

ーーまずい。ここは何とか話を合わせなければ!


「そ、そうなんですよ。アクセサリーを長時間付けてるとかゆくなっちゃうんですよねえ」


先の質問が怪しまれないように、咄嗟に嘘を吐いてしまった。実は、本当に金属アレルギーなのは私ではなく香織で、今のセリフも本人が以前話していたことをそのまま真似しただけなのだ。

これで何とか切り抜けられた、と、ほっと息をつく暇もなく、更なるピンチが私を襲う。