小林さんはそのままプリンターと自席を往復して、書類を印刷している。私はその隙に、こっそりと隣の村山さんに話しかけた。
「……村山さん」
「ん? どうしたの」
「あの、何だか緊張してきちゃって。車の中で気を付けなければいけないことって、ありますか?」
「特にないし、小林さんに任せておけば大丈夫だよ。……強いて言えば、沢山話をしてみればいいんじゃないかな」
話。
村山さんは簡単に言うけれど、今の私にとっては無理難題だ。一体何を話せばいいのか。
私は、何とか聞き出そうと食い下がった。
「ど、どんな話題がいいんでしょうか?!」
「うーん、そうだなあ……」
いつになく真剣な私を見て、村山さんは茶化すようなことはしなかった。腕を組んでしばらく考えた後、何かをひらめいたように明るい表情で私を見る。
「あ! サナギちゃんにピッタリの話題を思い付いた!」
「何ですか?!」
私は身を乗り出してアドバイスを待つ。やはり社会と人生の先輩だ。いつも私のことをからかってばかりいるように見えて、いざという時は頼りになる人だ。
「〝カノジョいるんですか?〟って聞いてみたらいいんじゃない?」
ーー前言撤回。
村山さんの悪魔の様な笑顔に、私は相槌すら打てなかった。