頼まれたのは、取引先に提出する見積書の作成補佐だった。事細かに記載された品目や金額がパソコンの画面いっぱいに踊っている。
小林さんの隣の席に着くと同時に、立川さんのことをいいように使って申し訳ないけど、と謝られた。
私は驚いて手を顔の前でぶんぶんと振る。
「そんなこと! これも何かの縁ですし、存分に使ってください」
「ありがとう」
小林さんが紙の書類に直接メモ書きしている内容を、パソコンの文書作成ソフトにひたすら打ち込んでいく。
走り書きでも丁寧な字を書く人だな、と思った。彼の性格が表れているようだ。
「意味は、分からなくて大丈夫。あと、内容は口外しないこと」
「はい」
本来なら、私以外の誰かがこの役になっているはずだ。私がひとりにならないように外出予定を全員で調整してくれていて、何だか申し訳なくなってくる。
黙々と作業をしていると、佐藤さんが声をかけてきた。
「それじゃあ私、お先しますね。……ごめんね小林くん、それ手伝えなくて」
「大丈夫ですよ、立川さんが手伝ってくれることになりましたから。お疲れさまです」
「お、お疲れさまでした」
振り返ると、佐藤さんはすたすたと出入口へ向かっていた。慌てて予定の書かれたホワイトボードを見やると、佐藤さんの予定は〝早退〟に変わっている。
つまり、それって。
ーー今私、この営業所に小林さんと二人きりっていうことですよね?!
快適な室内は暑くもないのに、背中にひと筋の冷や汗が流れ落ちた。



