村山さんが歩きを止めたのは、とあるお店の前だった。


「はい、着いたよ」

「ここは……」


見慣れない看板から察するに、チェーン店ではない個人経営と思しきラーメン屋だ。店の中からは、食欲をそそる香ばしいにおいが漂ってくる。


「サナギちゃん、ラーメンは好き?」

「はい!」


お腹が空いていたため勢いよく返事をしてしまった。くすりと笑われて、我に返る。


「良かった、じゃあ入ろう。……もし苦手だって言われたとしても入ったけど」


それって、ただ村山さんがラーメンを食べたかっただけなのでは、と思ったが、口には出さないでおいた。私もラーメンが好きなのでわくわくした気持ちでのれんをくぐる。

店内に入ると結構混んでいて、八割方席が埋まっていた。どうやら近場に勤務している会社員御用達の店のようで、様々な社員証を首にかけた客ばかり目立つ。


「いらっしゃいませー! こちらへどうぞ」


私たちは元気の良い店員さんに、四人掛けのテーブル席に案内された。
ごく自然に小林さんと村山さんが並んで座り、私に反対側の一列全てを空けてくれた。そのことにはすぐに気付いたのだが、さも当たり前のように動かれてしまったため、お礼を言うタイミングを逃してしまった。