村山さんに何度訂正しても全く改善されずに呼ばれ続ける不本意なあだ名ではあったが、小林さんから口に出して呼ばれた途端、このあだ名を付けられて良かったとすら思ってしまった。


「ええーそりゃないっすよ!……結構いい名前だと思うんだけどなあ」


ぶつぶつと呟く村山さんの後ろで、ため息を吐きながら呆れ顔の小林さん。そんな二人の様子を見ていたら、知らず知らずのうちに笑ってしまっていた。


「……ふふ、ふふふ」

「あ、サナギちゃんが笑った」


顔を上げると、やけに嬉しそうな村山さんと目が合った。


「良かった。朝から元気がないと思ってたんだよね」


それだけ言うと、またくるりと前を向いて歩き出してしまった。


ーーもしかして村山さんは、私のことを元気付けるためにわざと言ってくれたのだろうか。


「あいつさ」


私が村山さんの言動の真意が分からずに困惑していると、先ほどより声のトーンを落として、小林さんが話しかけてきた。


「ああ見えて、結構鋭いだろ? うちの自慢のエースだよ。……調子に乗るからあいつの前では言わないけど」

「ふふ、そうなんですね」


清々しい表情の小林さんと共に、私は村山さんの、薄いストライプの入った白いシャツの背中を見つめた。