視界の端では、村山さんが思いっきりこちらを見ている。


「……何その返事。サナギちゃん、僕の隣じゃ不満?」

「イエ、嬉しいデス」


ギギギ、とひと昔前のロボットのように首を動かし、ぎこちなく笑ってみる。香織に借りた〝今さら人に聞けない!就活のイロハ〟という自己啓発に近い本にも書いてあったが、コミュニケーションは第一印象が大事だそうだ。気持ちのよい挨拶で悪くない印象ーできればなるべく良い印象ーを人に与えることができれば、その後の人間関係が良好となり、物事が円滑に進んでいく、とかなんとか……。


本当に今更だが、先ほど会ったばかりだし、まだ挽回できるかもしれない。そう淡い期待をしながら、バッグを村山さんの隣の席へと移動させた。
ちょうど中村所長の席の前が通路になっていて、小林さんと村山さんの席が向かい合って配置されている。更に二人の隣にはそれぞれ机があるのだが、普段は使用していないとのことだった。時々作業の手伝いで佐藤さんが座ったり、まれに短期バイトの人を雇うことがあるらしく、そういったときに使用しているそうだ。

つまり小林さんの隣も空いていたという事実を知り、少しだけ残念な気分になる。