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私は保健室を出て、夜空を見上げながら帰路に着く。

瀬良先生が「暗いから送るよ」と言ってくれたけど、なんだか瀬良先生の隣は落ち着かないし、車で送られちゃうと家に早く着いちゃうから、「いいです」と言って私は走って逃げてきた。

「あーあ、家に帰りたくないな」

そこの角にあるコンビニを曲がると、すぐにピンク色のハイツが見えてくる。

そこの二階の一番端が私の家。

蛍光灯がつく階段をゆっくりと上がって行く。

ドアの前でスゥと深呼吸をしてから玄関に入った。

大きな黒い革靴…

アイツ…もう帰って来てたんだ。

ママの彼氏が仕事から帰ってきていることに、ショックを受ける。

気が重い…リビングに入りたくない。

私はリビングには行かず、玄関から直接、自分の部屋に入り鍵をかける。

ママは私が帰ってきてこと、気付いてくれてるかな?

…ううん、きっと、気付いてない。

ママはアイツのことで頭がいっぱいだから、私のことなんて、これっぽっちも気にしていないに決まってる。

アイツが居る時は、私がご飯を食べない事も

アイツがいるリビングには寄り付かない事も

ママは何も気付いてない。

私のことなんて視界に入っていないんだ。

…こんなこと、考えてもいても何も変わらない、無駄だ。

私はベッドの上に置いてあるパジャマに着替えようと目をやる。

…………あれ?

私、今朝は畳んで行かなかったっけ?

気のせいかな?

私はなんだか腑に落ちないまま着替え、ベッドに入りスマホを眺める。

「なんかお前、危なっかしい」と言われ、さっき無理矢理に渡された瀬良先生の番号…

本当に変な先生だな。

そんな簡単に生徒に番号を教えちゃっていいのかな?

でも…

なんだか、心配されるのって嬉しいかも?

私の事をちゃんと見てくれてるってことだよね?

誰かに心配されるって、こんなにホッとすることなんだ…

少しだけ守られてるような気分になり、私は自然と眠りについてしまった。

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ーーガチャ…ガチャ、ガチャ

……………ん、なに?何の音?

私は目が覚めて、枕元に置いてあったスマホで時間を確認する。

夜中の二時…

ガチャ…ガチャ、ガチャ

また音がして、私は怖くて完全に目が覚めた。

「…陽菜ちゃん」

ドアの外から消えそうな声で呼ばれた私の名前。

………アイツだっ!

鍵が閉まったドアノブをママの彼氏が、ガチャガチャと何度も上下させる。

何なの…

こんな夜中に私の部屋に何の用があるの?

……嫌だ

怖いっ!

私は身の危険を感じ、震えながら布団に包まる。

「また来るよ」

今度は少し笑ったような声で言ってから、諦めて去って行った。

どうしよう…

怖いよ…

誰かっ

助けてっっーーー