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「俺は、生徒である藤崎の気持ちには応えられない」



瀬良先生にフラれて、私はフラフラと保健室を出てから無意識に教室へ戻って来ていた。

ポッカリと穴が空いてしまった心に、スースーと冷たい風が吹き抜けてるみたい。

ついこの前まではポカポカと温かかったのに…



「藤崎さん…大丈夫?」


声を掛けられて牧野くんが側に居たことに気付く。

「…何がですか?言っている意味が分かりません」

私は咄嗟に平静を装い、何も無かったかのように返事をした。

「僕の前じゃ泣けない?それとも僕のことは信用出来ない?」

「別に…泣きたいわけじゃありません」

私が目を逸らして言うと、牧野くんがそっと右手を私の頬に当て親指でなぞる。

「っっ///⁈」

「目が赤いよ。瀬良先生に泣かされたんじゃないの?」

牧野くんが眉間に皺を寄せながら言った。

「そんな、こと…」

瀬良先生に言われたことを思い出して、だんだんと目頭が熱くなってくる。

そんな私を見て牧野くんが、

「ごめんっ。瀬良先生に腹を立てる前に、藤崎さんに謝らないといけないのは僕の方だっ」

そう言って私をぎゅっと強く抱きしめた。

「ま、牧野くん///⁉︎」

「藤崎さんがクラスの女子に連れられて裏庭に行ったって聞いて…ごめんっ。
俺のせいで怪我させちゃったんだよね?
藤崎さんを守れなくて本当にごめんっ」

牧野くんの申し訳ないという気持ちが、私を抱きしめる腕から不思議と伝わってくる。

牧野くんはきっと私を助けようと走って探してくれたんだよね?

だって、息を切らしながら保健室へ来てくれた。

「牧野くんのせいじゃないから、気にしないで下さい」

私は牧野くんの背中を、ポンポンとあやすように軽く叩いた。

すると牧野くんの体がピクッとなる。

そっと腕を解いて私を離した牧野くんは、少し怪訝そうな顔で私を見た。

「もしかして、僕のこと子供扱いしてる?」

「……………?」

意味がわからず私が首を傾げると、

「僕は藤崎さんに男として見てもらいたい。僕は君のことが好きなんだ」

真剣な表情で、もう一度告白してくれた牧野くん。

ちゃんと返事をしなきゃ。

今、私が味わっている辛さを牧野くんにもさせてしまうのは嫌だけど…

「ごめ…「僕にしなよっ」」

私の声に牧野くんの声が上から覆い被さった。

「誰よりも藤崎さんのことが好きだ。ずっと大切にするし、絶対に泣かせない。だから……瀬良先生なんてやめて、僕にしなよ」

そう言って牧野くんは、もう一度、私をぎゅっと抱きしめる。

そして、私の耳元で、

「お願い…僕を選んで」

切なく苦しそうな声で牧野くんが言った。

私は牧野くんに抱きしめられながら、こう思ったんだ…



牧野くんと付き合う方が

幸せなのかもしれない



でも、それは違う。

私が好きなのは瀬良先生であって、牧野くんじゃない。

好きじゃないのに付き合うなんて、牧野くんに悪いにきまってる。

じゃあ、私がいま、牧野くんにする答えは…





「……ゴメンな、、さい」