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ダンッ、ダンッ、ダンッ…



いつもより静かな体育館に鳴り響くボールの音と部員達の不平不満の声。

それは仕方ない。

始業式の日に部活があるのは男バスくらいだったから。

「マジで、こんな日まで部活があると思わなかったよなー。」

「はい、はい、文句言わずに練習するよ」

牧野くんが部員達をなだめながら、練習を始めた。

さすがに今日は部活がないと思ったのか、牧野ファンの人達は来ていない。

内心ホッとする私。

だっていつもは、キャーキャー煩いし、私が牧野くんの少しでも近くにいると、とっても鋭い視線が突き刺さるんだもんね。

本当にやってられない。

好きでここに居るわけじゃないのに…

「何?お前ら、こんな日にも部活してんの?」

背後から聞いたことのある声がしたけど、私は気付かないフリをして、真っ直ぐにコートを見ていた。

「おい、おい、また無視かよ。冷たい女だな」

何よ。

「可愛くない女」の次は「冷たい女」ですか?

どうでもいいけど、早くどっかに行ってよね。

私はなにも言わず無視を続ける。

「ぷっ、変な女。まぁ、どうでもいいけど、お前ちょっとついて来いよ」

そう言って、瀬良先生は私の腕を引っ張って、体育館から連れ出そうとした。

「ちょっと!離して下さいっ」

思いっきり瀬良先生の手を振り払おうとしたら、急に頭がクラッとして逆に瀬良先生の肩に寄りかかってしまう。

「あーあ、大人しくついて来たらいいのに。俺の言うことが聞けないんだったら、ここから抱きかかえて保健室まで連れてくぞ」

「は?なに言ってるんですか///」

「嫌なら、大人しくついて来ることだな」

「ちょっと待って下さい。瀬良先生、彼女に何の用ですか?」

コートから走って来た牧野くんが、空いているもう片方の私の腕を掴んで引き止めてくれた。

「俺は職務を全うしてるだけだけど?」

「意味が分かりません。彼女の腕を離して下さい」

珍しく牧野くんが怒ったような表情で言った。

「あぁ、面倒くせぇ。お前こそ、コイツの腕を離せよ」

瀬良先生が牧野くんの手を私の腕から外したと思ったら、急に身体が宙に浮いた。

「きゃっ⁈」

「ちょっと、瀬良先生っ!何してるんですかっ。彼女を降ろしてくださいっ」

牧野くんは、私を抱きかかえた瀬良先生の腕を掴みながら訴える。

「降ろさねーよ。コイツ、体調不良だから保健室に連れて行くんだよ。わかったら黙ってその手を離せ。イケメンくん」

「彼女のどこが体調不良なんですかっ」

「お前、残念なイケメンだな。コイツの顔色見てわかんねぇ?貧血だよ、ひ、ん、け、つ。わかったら手を離せ」

私の顔を見た牧野くんは、素直に瀬良先生の腕から手を離した。

「ん、わかれば宜しい。んじゃ、病人はそのまま暴れんなよ。ちょっとでも暴れたら、マジで落とすよ?」

軽く脅された私は、瀬良先生の言う通り大人しく運ばれることを選択する。

瀬良先生は大人しくなった私を見て、満足気に笑い、本当に抱きかかえたまま保健室へ連れて行った。