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「ねぇ、どうして朝練休んだの?」



前の席を陣取り、ジーっと私を見てくる牧野くん。

その牧野くんの背後から、女子の皆さんが私に鋭く冷たい視線を突き刺してくる。

「…体調が悪かったので」

私はその一言だけ言って、教室から出て行こうと席を立った。

「ちょっと待ってよ、藤崎さん」

牧野くんが私の腕を掴んで引き止めると、「キャーッ!」と女子の皆さんが悲鳴のような声を上げる。

「離してくださいっ」

これ以上、本当に敵を増やしたくないんだってばっ。

前から私には話しかけないでって言ってるのに、どうして放っておいてくれないのっ。

「なんで…今朝は…瀬良先生の車から降りてきたの?」

えっ⁈

今朝、瀬良先生に送ってもらったところを牧野くんに見られてたのっ⁈

どうしようっ、なんて答えたらいいんだろうっ。

私が返答に困って黙っていると

「言えないような理由なの?」

私の腕を掴んだまま、眉を下げ苦笑いで牧野くんが言った。

「…そんなことっ」

「はーい、そこまで〜」

パンッパンッと手を叩きながら教室に入ってきた瀬良先生。

「きゃーっ」と今度は女子の皆さんの黄色い声が上がった。

「……瀬良先生?」

え?どうして、この教室にいるの?

瀬良先生は私の隣までやって来ると、私の腕を掴んでいる牧野くんの手をそっと外した。

「コイツが体調悪くて道端にうずくまってたから、俺が車で拾って送って来ただけの話しだよ」

瀬良先生は、ニコッと笑顔で牧野くんの顔を見て言った。

「本当なの?藤崎さん」

牧野くんは疑っているような目で私に聞いてくる。

「…本当です」

仕方ないとはいえ、嘘をついてしまって少し心苦しい。

「じゃ、そういうことで。行くぞ、藤崎」

瀬良先生が私の肩をポンッと軽く叩いてから、教室から出るようにとドアを指差した。

「え?どこに?」

「お前、体調が悪いんだろ?」

そ、そうだった。

そういうことになってたんだった。

「…はい」

私は少ししんどそうに答えてみる。

「ちょっと待って下さい」

牧野くんが私たちを呼び止めた。

「どうして、瀬良先生が藤崎さんをわざわざ教室まで迎えに来るんですか?」

牧野くんは睨むように瀬良先生を見ている。

瀬良先生は、そんな牧野くんの睨みなんて全く気にせずにニッコリと微笑んで…

「藤崎が素直に保健室へ来ねーから。養護教諭として体調の悪い生徒をほっとけないだろ?それとも、体調が悪いことを知っておきながら放置しろってーの?」

「だ、誰もそんなこと言ってないじゃないですかっ!」

いつも爽やかな牧野くんが珍しく声を荒げた。

「だよね?じゃ、行こっか藤崎」

瀬良先生は、またニッコリと牧野くんに笑顔を向けてから、私の背中に手を当てて出口へと誘導する。

なんだか牧野くんが可哀想だけど、私も今朝のことを聞かれると困るから黙って瀬良先生について行った。