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パタン…



真っ赤な顔をしながら藤崎が部屋のドアを閉めた。

「ククク…」と俺はリビングで肩を震わせながら笑う。

藤崎ってマジで可愛い。

ちょっとしたことで赤くなったり慌てたりする。

第一印象は、落ち着いた女子高生だなと思ってたけど実際は違ってたな。

本当の藤崎は感情が表に出やすいタイプだ。

でも、自分というものに蓋をして何かを諦め、今の落ち着いた…いや、無表情な藤崎が出来上がったみたいだ。

最近は少しずつ笑うようになってきて、俺に少しは心を許してくれてるみたいだけど…

あれは無いよな…

パジャマでしかもノーブラ。

俺だって先生である前に男だぞ?

気を抜くとマジで喰っちまいそうになる。

アイツ、なんか高校生だとは思えない色気があるし、顔はマジ可愛いしで正直なところ困る。

早いとこ母親の元へ返さねーとな…

昨夜は仕事が終わってから藤崎の家に行ってみたけど、あの母親、まだあの男と別れて無かった。

俺の顔を見ると逃げるようにあの男は慌てて家を出て行ったけど、俺が帰ったあと、またあの家に戻っているだろう。

母親と話をしてみたが、母親はあの男が藤崎に手を出そうとしていたことに気がついていないようだった。

ただ反抗期の娘が家出をしたと思っている。

家でご飯は食べない、直ぐに部屋に閉じこもってしまう娘にどう対処したらいいのか分からないと言っていた。

何も本質的なところが見えていない母親。

なぜ、藤崎が飯も食わずに部屋に閉じこもるのかを全く分かっていない。

とりあえず、俺は藤崎をウチで預かっていることを母親に伝えた。

その事を聞くや否や、母親は「娘をすぐに返せ」と泣き叫ぶ。

情緒不安定な母親に、いつ藤崎に手を出すか分からない男。

この家に藤崎を今返すわけには行かないと思った俺は、母親を宥め(なだ)説得をして少しの間ウチで預かることを了承させた。

学校には流石に報告出来ないやり方だ。

バレればクビだろう。

でも、俺は職を失っても藤崎のことを守ってやりたい。

かつて恩師が俺のことを守ってくれたように俺も…



「瀬良先生?」



制服に着替えた藤崎が、考え事をしていた俺の顔を覗き込み不思議そうな顔をしている。

「あぁ、着替えてきたか。じゃ、メシ食おうぜ」

俺たちは、二人で揃って手を合わせてから食事をし始めた。

「苦っ。この魚焦げてんじゃねーか。藤崎、苦いから食わなくていいぞ」

俺は、藤崎の前に置いてある焼き魚がのった皿に手を伸ばしたが、藤崎に阻止される。

「食べます」

「いや、無理すんな。マジで苦いから」

下を向いて頭を横に振った藤崎。

「瀬良先生が私のために作ってくれた物だから、私が食べたいんです」

そう言って焼き魚をパクッと食べた藤崎は、ニッコリと笑い「美味しい」と言った。

胸がギュッとなり熱くなる。

もしかして、救われてるのは俺の方かも知れない…

この時、俺はそう思った。