カーテンの隙間からこぼれる柔らかな光で私は目覚める。

今日も寝不足気味な私は、ふぁ…と大きな欠伸をしながらベッドを出た。

クリーニングから返ってきた制服に袖を通し、パジャマを畳みベッドの上に置いてから、ドアの鍵を開けリビングへと向かう。

「おはよう、陽菜ちゃん」

コーヒーを片手に新聞を読んでいるこの人は、ママの彼氏。

うちの両親は、私がまだ小学生の時に離婚した。

ママは優しくて美人で…

弱くて…ひとりでは生きていけない人。

だから、別れてもすぐにまた違う彼氏をつくり同居までしてしまう。

この人で、一体、何人目だろうか…

「…おはようございます」

私はママの彼氏を見ずに挨拶だけした。

はっきり言って、私はこの人が大嫌いだ。

本当は早くママと別れて、この家から出て行って欲しい。

でも、ママが今はこの人が居ないと生きていけないから…

私じゃダメだから…

「おはよ、陽菜、ご飯は?」

キッチンから、彼氏の朝ごはんをトレーにのせて持ってきたママが言った。

「いらない」

私はそう答えてリビングを出て行く。

「まだ、反抗期かしら?」なんてママの的外れな声を聞きながら、私は洗面所で顔を洗い、歯磨きをしてから家を出た。

今日から高校二年生の私。

今の生活から解放される何かを期待して、桜並木に向かって走り出す。

「きゃっっ⁈」

突然、私は何かに躓いて転けそうになり、両手を地面についた。

「いってぇ…」

満開の桜の下からムクッと誰が起き上がる。

痛いのは私の方なんだけどっ!

心の中で文句を言いながら、その人を見上げた。

風になびくサラサラの髪。

キリッとした眉に涼しそうな目元。

その人を見て心臓がトクンと大きく波打つ。

なんだ?これ?

不思議に思い、私は自分の胸元に視線を移した。

「わりぃ、大丈夫?」

その人は、地面に四つん這いのような格好になっている私にそっと手を差し伸べる。

「自分で立てます」

私は差し伸べられた手を無視して、自力で立ち上がった。

「うわ、可愛くねー女」

「可愛くなくて結構です」

そんなの言われなくてもわかってるわよっ。

なんなのよ!この男っ!

イケメンだけど、失礼なヤツだなっ!

それに、こんな朝早くから桜の下で寝てるなんて信じられないっ!

私は制服を軽くはたき、地面に落ちている鞄を拾って、何もなかったかのようにその人に背中を向け桜並木を歩き出した。

二度と会うことはない。

この時はそう思っていたのだけど…

まさか、ことあとすぐに会う事になるとは、想像さえしていなかったんだ…