赤い大地に染み渡る黒い雨。

 轟く雷鳴の住み家から零れる雨。

 万物を透かし溶かす温い雨。


 さー。さー。さー。


 水滴など残らないはやさで降る群体。触れては増え、集まっては太まり、当たっては砕け、常に降り続ける雨。そこに際限はなく、やがて森羅万象の寝台である大地に穴を空け始めた。

 平坦なこの世界、長い年月を駈けて彼らは進軍し続けた。

 十年、二十年。洪水になるには未だ足りない。

 三十年、四十年。大地を染めても足りない。

 五十年、六十年。埋め尽くすばかりで届かない。

 七十年、八十年。海水すら飲み干しても届かない。

 九十年、百年。覆うばかりで適いはしない。


 さー さー さー
 D−.D−.D−.


 獣を溺れ飲ませても、木々を濁流で薙ぎ倒しても、鉄の城下町を沈めてみせても、雨の33825願いは叶わなかった。

 どこまでも堕ちていきたい。

    ささやかな
 そんな33825願いさえ。


 一を越え、十を越え、ひたすらに願った。

 百を越え、千を越え、いつかは叶うと信じた。

 一の万を越え、十度万を越え、濡れていく世界に折れかけた。

 百の万を、千の万を越え、やがてただの雨になれたら楽なのに、と軍隊は群れに成り下がった。

 三度の億を越え、いまや義務として黒雲より飛び降り自殺する雨の民。槍を持つことも歯向かう意志も捨てて、ただ死に向かう無謀な滅びぬ住人たち。

 そんな彼らが、初めて死なずに触れた。出会いと逢った。


 勇敢なるモノよ。
 キミは何故死ぬのかね。


         ペルソナ
 三日月に笑う架空の仮面。


 私が願いを叶えてあげようか。


 黒衣の仮面は、そうおどけて笑う。独り土砂降りのなか、染み一つ作らず濡れない男は奇怪にして畏れるものがある。

 それは、魔法使いと名乗った。