意地悪な集団

「さて、8段んとこ、行こう」
末明がそう言って、8段の列に並びに行こうとすると、鎌田と誰かの話し声が耳に入った。

「あれ?晴香、まだ着替えてたのか?」
「お、はい。すいません・・・」
「何してたんだ!もう授業始まってるぞ!あの椿ですら、もう練習してるっていうのに」

は?
椿ですらって・・・
何それ!!
まるで私がクラスの中で一番迷惑な生徒みたいじゃん。
鎌田って、本当に人のことを考えない。

「だから嫌われるんだっつーのっ!」
とうとう本日2回目の頭の中の糸がプツンと切れた。

「すみません・・・えっとー、ジャージが見つからなくって・・・それで遅れちゃいました」
晴香の嘘がはっきりと聞こえた。
やっぱり、弱ぇな。
ジャージが見つからないとか・・・
まぁ、いい訳には、なるもんね。
バカでも、それぐらいは分かるのか、と1人で納得していた。

「事実、言っちゃえばいいのにー」
横で朱莉が呟いた。
「うん、ほんとあり得ないわ!」
「だよね。ま、どーでもいいけど!はやく練習しよっ」
「そーだねっ、こんなのに練習時間つぶしちゃ、せっかくの体育がもったいないもん」
クスクス笑いながら、列に並んだ。

順番待ちのとき、みんなでワイワイ話してると、もう前の人が跳び箱を跳んでいた。
行こう、と思った瞬間、ほんの少し離れたところから声が聞こえた。
「結衣、早く跳んだら?もう前の人、跳び終わってるよ」

「あぁ!?お前に言われなくてもわかってるよ」
また頭の中の糸がプツンと切れた。
「だったら、準備してたらいいじゃん」
「マジあり得ない!行こうと思った瞬間に言われんだもん。そういうのって、ほんと頭にくるから、やめてくんねぇ?」

そう言い残し、助走をつけて跳び箱を跳んだ。
軽々と8段を跳び越えた。
「8段とか、楽勝じゃん」