先輩は片耳に付けていたイヤフォンを取って、頬杖をつく。
私をジッと見る姿に、ドキッとした。
「だから、お前も忘れろ」
昨日の、あの時間。
先輩が嫉妬したこと、可愛いって言ってくれたこと、照れた顔。
「……忘れたくありません」
あの時間は、私と先輩の距離が少しでも近づいていた。
嬉しかった。私の、大切な思い出。
女子とは全く話さない無口な先輩が、私にだけはちゃんと会話をしてくれる。
赤くなった顔を見せてくれる。
……優しくしてくれる。
それって私に気を許してるってことでしょう?
またため息をついた先輩。
そんな彼を今度は私がジッと見る。

