「莉乃、怒ってる?」


「怒ってない。その話なら戻る。」


「後悔してる。」



総務の人の前で何を話そうとしてる?


背を向けていた私は振り返り、もう一度大樹に視線を戻した。


総務の人の視線が私と大樹を交互に見ている。


明らかに怪しんでいる。



「小川、ここは会社だよ。」


「そうだな。莉乃が話を聞いてくれないからだろ。」


「…………。」


「俺は別に構わないけど。」



黙々と申請書にペンを走らせる男の表情は真剣だ。


冗談で言ってないのが伝わる。



「俺は後悔してる。」



総務の人と目が合う。


絶対に修羅場だと勘違いしている。



「小川、もういいから。この前の同期会の話でしょ?私は気にしてないって。」


「莉乃?」



顔を上げた大樹と視線が交わる。



「私は気にしてない。終わった事だよ。」



今度こそ、大樹に背を向けて総務課を出て行く。


背中に突き刺さる視線は大樹のモノだろう。


でも私は無視して、企画部のオフィスに向かおうと廊下を進んだ。