私が会話している間、茉莉は右手で翔の頭を優しく撫でている。
暗くて表情は窺えないがきっと聖母のような微笑みを浮かべているのだろう。
「ガトーショコラ美味しかったかな?」
「あぁ最高に美味かった。また作ってくれよな」
「うん!勿論!」
会話を続けながらちらりと視線を動かせば、茉莉の左手と翔の右手が繋がれているのが視界に映る。
その光景に私が付け入る隙なんてないのだと改めて思い知らされて酷く心を締め付ける。
「……眠たくなってきた?」
「ん?あぁ少しな」
歯切れが悪くなってきた。
もうそろそろかな。
「なぁ茉莉」
「翔君どうしたの?」
あぁくる……
「愛してる」
やっぱり……
翔は寝る直前に愛の言葉を囁く。
ははっ分かっているんだけど辛いなー
「私も愛しているわ翔」
この言葉を茉莉の口調で言わないのはせめてもの反抗。
『私も愛してるの』っていう誰にも届かない小さな主張
翔が寝たのを確認して立ち上がり
「じゃあ茉莉もおやすみ。また明日ね」
静かに言葉をこぼして部屋をでた。