トイレから出ると桐島くんが壁に寄りかかって立っていた。


「……き、桐島くん……」


私に気付いた桐島くんは無言でこちらに向かって歩いてくる。


「……行くぞ」

「へ?行くってどこへ……?」


桐島くんは私の腕を掴むと、困惑している私を連れて歩き出した。


「え?お店出ちゃって大丈夫なの?」


てっきり優奈たちがいる席に戻るかと思っていたが、桐島くんは席には戻らずにそのままお店を出てしまった。


「皐月さんには伝えてあるから大丈夫」

「じゃ、じゃあ……どこに向かってるのよ?」

「秘密」


桐島くんはそれだけ一言呟くと、駐車場に停めてあった車に乗り込む。


訳が分からないまま私も渋々桐島くんの車の助手席に乗り込むと、シートベルトを締めた。


……荷物も全部トイレに持って行ってたから良かったけど。


私が荷物を席に置きっぱなしだったら、きっと桐島くんはこんな風に私を連れ出すことは無かったよね?


そんなことを考えながら運転している桐島くんの横顔を眺め、静かに俯いた。


「桐島くんは、彼女とか居ないの?」

「……居たら普通合コンとか来ないでしょ」


確かにそれはそうだけど……。


「そういう高梨さんは?彼氏は居ないの?」

「…………いませんけど?悪いですか?」

「別に」


桐島くんはポツリと呟いて口を閉ざした。


……気まずい。
ただでさえ、学生時代に振られて気まずいっていうのに……。


もう何年も前の出来事なのだから気にするだけ無駄だと思うけど。


“……高梨さんは、ただの友達だよ”


そう言われた時の事を思い出すと胸がチクリと痛む。


「…………駅前で下ろしてくれる?」


桐島くんは近くの駅のロータリーに車を停めると、


「これ、俺の連絡先」


車から降りようとしていた私に名刺を差し出した。


「それじゃあ、また」


桐島くんはそれだけ言うと静かに車を走らせた。


桐島くんの車を見えなくなるまで見送った後、手渡された名刺を見る。


【株式会社〇〇 企画部 桐島伊織】と書かれた名刺の裏には桐島くんの携帯の電話番号とアドレスが書かれていた。


私はカバンに名刺をしまうと家に帰った。


「ただいま……」


誰も居ない部屋に向かってポツリと呟く。化粧を落とし、部屋着に着替えると、そのままベッドにダイブする。


……なんか今日は色々あったなあ……。
そういえば途中で見せから出てきちゃったけど、優奈と柏木さんってどうなったんだろう。