笑みを浮かべたまま柏木さんは隣に座っている桐島くんをちらっと見ながらそう言った。


「……そんなに皐月さんは俺の過去を知りたいんですか?」

「どうだろうね?でも、伊織って俺の前だといつも飄々としていて、いまいち何を考えているかよく分からないからさ……」


露骨に嫌そうな表情を浮かべている桐島くんを見ながら柏木さんは楽しそうに笑う。


……桐島くんと柏木さんってどういう関係なんだろう?


桐島くんは柏木さんと話す時は敬語っぽいし……。
大学時代の先輩かつ会社の同僚ってことかな?


二人のやり取りをぼんやりと眺めていると隣に座っている優奈に腕をツンツンと突かれた。


「ねえねえ、美和ちゃんと桐島さんって本当にただの同級生?」


私にだけに聞こえるような小声で優奈はずっと疑問に思っていたことを私に尋ねる。


「あ……うん。ただの同級生かな?」

「本当に?」

「本当、本当」


そう答えながら私は苦笑して、優奈を見つめた。



……むしろ優奈に話せるほどの話のネタは生憎私たちには全くない。


心の中でツッコミを入れる自分にさえ切なくなる。


「でも偶然合コンで数年振りに再会するなんて運命じゃない!?」

「ちょっ……!優奈、声が大きい!」


慌てて優奈の口を塞ぎ正面に座る男性陣を見れば、話の内容までは聞こえていなかったようで不思議そうに私たちを見ている。


聞こえて無かったみたいで良かった……。


「そういえば、柏木さんと桐島さんって同じ大学なんですか?」

「ええ。専攻していた学部は違いましたけど、サークルが一緒でしたので」


にこにこと愛想良く優奈と会話をしている柏木さんの隣で、相変わらず桐島くんは黙っている。


合コンといってもさっきから会話が盛り上がっているのは柏木さんと優奈だけで、お互い正面に座っている私と桐島くんは黙り込んでいることが多い。


「……」


ちらっと桐島くんの方を盗み見れば、なんとなく高校の頃の面影がある桐島くんが視界に入った。


高校の頃はただただ純粋に桐島くんのことが好きだったんだよね……。


小さくため息を溢すと、


「優奈、ごめん。ちょっとお手洗いに行ってくる」


優奈にこっそりそう告げ私は静かにトイレに向かった。


……なんでこのタイミングで再会しちゃうかな……。
もう一度会いたかったような、 会いたくなかったような……。


トイレの鏡に映る自分を眺めながら大きなため息を溢す。


あの日から傷つく恋はもうしないって決めて、学生時代は勉強に励んで、社会人になってからは夢中で仕事に打ち込んでた。


「…………もう会わないと思ってたのに」


桐島くんと再び出逢った瞬間、ずっと胸の奥にしまい込んでいた気持ちが蘇りそうになった。


ずっと心の奥にしまっていたはずのあの頃の気持ちが。


恋に臆病になったあの日からずっと蓋をしていたのに。


「なんで今頃現れるの……」