「ちょっと勘弁して下さいよ!キミのお友だち、まだ返してくれないんだよ」



「すみません!今、説得しますので」



わたしの耳は地獄耳だ。


聞こえなくても良いこと(いや、ホントは聞こえなくちゃならないんだけど…)が聞こえて来てしまう。


屋上につながるドアの向こうで繰り広げられていることは、きっと私が原因だ。


わたしの代わりに園田さんが頭を下げてくれたはず。


それにもかかわらず、わたしはやっぱり夜空を見つめていた。



「ことちゃーん!望遠鏡、部長さんに返して!」



お世話になっている園田さんには申し訳ないけど、今のわたしに何を言っても無駄だよ。


必ず天の川を見て今年こそ良い年にするんだから!



「ことちゃーん!あたしの話、聞いて!お願いだから返して!」



望遠鏡に右目を押し付ける。


あいたたた…。


わたし、押し付け過ぎ。


まぶたに変な跡着いちゃう…。



「ことちゃん!!」



「うぎゃっ!」



背後から突然肩をバシバシと叩かれて私はわたし妖怪のような恐ろしい叫び声を上げてしまった。


自分自身も驚いたけど、園田さんはもっと強烈パンチを食らったらしく、一歩後ずさった。



「…ことちゃん。あたしのことを思うなら、今すぐ部長さんに返して…」



わたしはただならぬ気配を感じ取り、しぶしぶ部長さんに望遠鏡の片付けをお願いした。 


だって…


わたしが折れなきゃ…


園田さんが…


大会にでられなくなっちゃったかもしれなかったから。