ただし、美湖には決定的な汚点がある。


美湖は…勉強があまり出来ない。


才色兼備と言えれば良いんだけど、残念ながらそんな完全無欠な人間はなかなか見当たらない。


俺は、芸能界と学業の両立を目指す美湖に同情し、勉強を教えている。


特に理系科目がちんぷんかんぷんらしく、中学校で習って来たはずの化学記号さえあやふやだ。
 


んで、そんな感じだから以前こんなことがあった。



「ねえ、これなんて読む?」



美湖が指差したのは、まさかのFe。


けっこうテレビとかでも取り上げられているから分かりそうだが、美湖には検討もつかないらしい。



「鉄のことだよ。ほら、Caはカルシウムじゃん。テレビでもやってる」



言った後に後悔した。


美湖は唇を尖らせてから左頬を膨らませた。


「テレビでもやってる」が気にくわなかったのだろう。


自分にわからないことがあるといつもこうして、ザ・不機嫌感を露わにする。


…ま、可愛いから許すけど。



「化学部に頼んで今度一緒に実験しよっか」



俺の一言で美湖はたちまち笑顔を取り戻し、ノートに再び向きあったのだった。