「さえちーん」
教室のドアから私の名前が呼ばれ扉に目を向けると、パタパタとスリッパを鳴らしながら駆け寄ってくる女の子。


「あ、りょうちゃん!」
「一緒に部活行こうと思って来たの」

にっこり笑いながら私の席へとやってきたのは、カワハラ リョウコちゃん。
ショートカットでちょっと日に焼けた肌が印象的な女の子だ。


「行く行く、ちょっとヤマグチ先生に部活に持っていけって言われてるものがあるから職員室寄っていいかな?」
「うん、いいよー、なんだろね?」
「なんか、今度の大会で出場する種目を記入してほしいみたい」
「あー、あと1ヶ月後くらいだもんね、マネジャーの仕事増えるね」


そう言い合いながら、私は机の中の必要な教材をバックに詰め込み、リョウちゃんと一緒にクラスから離れた。


私の所属している部活は陸上部だ。
中学から陸上部に入っているが、高校からは選手としてではなく、マネジャーとして活動している。
理由はハッキリ言ってズバ抜けて速いってこともなく、平均的な記録しか残してなかったからだ。
特に物凄く伸びることもなく、中学の部活は終わってしまった。
自分の限界を感じた気がしたため、高校からはマネジャーとして陸上部の一員となったのだ。
陸上を見るのは好きだし、何より皆の頑張りを側で支えられる仕事はなかなかやり甲斐があって面白い、今ではマネジャーになってて良かったなと思える。





「集合ー!」
部長の掛け声で部員全員が集まった。
「来月には秋の大会が始まる、それで、先生から出場する種目を記入するようにとのことだ。大体の奴は決まってるだろうから、帰る前にでもマネジャーに伝えてくれ。ただし、100メートルに関してはみんな出場するようにってことだ。じゃ、今からアップ始めるぞー!」
「「はーい」」


部員達が声をあげると、部長が走り始め、後を追うように部員たちも連なって走り始めた。

「じゃ、サエちゃん準備しようか」

私に声をかけてきたのは1つ上のナナミ先輩。
ハイって返事をしてナナミ先輩の隣を歩く。


「もうすぐ9月なのにね、やっぱり暑いよねー、汗ダラダラ出ちゃうよ」

ケラケラ笑いながら、帽子を取って乱れた髪をまたくくり結ぶ先輩、ちょっと色っぽいななんて思いながら


「なんでこの学校ってクーラー設置しないんですかね?進学校なら暑さ対策してくれないと勉強できませんよ。」


ちょっとムスッとした感じで喋ってしまう。

「確かに確かに!私もそう思うわ!誰かお金持ちが寄付してくれないかね?」



先輩はわたしの意見に賛同し、手を軽く上下にゆらゆら振る。
ナナミ先輩はナナタバ ミサトという名前だ。
最初聞いた時はナナミという名前だと思っていたら全然違っていて驚いた。
なぜ、その名前になったんだろ?
先輩に聞いてもいつの間にかその名前が浸透したみたいだと言っていた。
いや、本当誰なんだろ?考えた人に意見聞きたいわ。



「あ、ごめん、サエちゃん部室にもう一個ストップウォッチあるか見てきてくれるかな?こっち持ってきてるの1個だった」
「はい、分かりました、取りに行きます」


私が頷きながら部室へと方向転換すると、ごめんねーっと先輩の声が聞こえてきた。