夏期講習もあと少しで終わり、9月からは2学期が始まる。
ジトっとした汗がキャミソールに張り付いて気持ち悪い中、古文の授業をうけている。
ちょっと視線を遠くの右斜め前に移すと、黒板に書かれている文字をノートに書き込む人物、ヤマモト ユウタを見つけた。



あー、やっぱりかっこいいんだよなー、でもわたしふられちゃってるし、こんなに見てたらダメだよね


と思い、この前の出来事を思い出す。ここ2週間ほど前のお盆休み前に告白したが、あっけなくふられてしまったのだ。


確かにそうだよね、急な告白だったから驚いてたみたいだもん。
でも、結構ガン見してたから分かってくれてるかと思ってたんだけどな、


と思いながら今度は左側の窓に視線をむける。
窓際の席だと風も通ってすこしは暑さがましになるなとちょっと思考を切り替え再びまえの黒板に意識を集中させた。





「サエ」
5限目が終わり、一番仲の良いイシダ カオリちゃんが私の席へとやってきて話し始めた。


「やっと、5限目終わったねー、あと1限授業頑張れば終わる!」
「そうだねー、6限ってなかなか長いよね、てか、この暑い中での授業だときついわー」
「やっぱり進学校になると授業授業のオンパレードだね、初めての夏休みなんてお盆だけとかしらなかったもん。高校生活は勉学で終わるよ」

フッーとため息をつくようにカオリちゃんは話した。




ここ、東山西高校は地方の県立高校で進学高校である。
高校の名前自体がおかしく感じられるが、東山という地名の西側にあるため、そう名付けられた模様。
この高校は、普通科と文化コース科の2つにわかれており、普通科が6クラス、文化コース科は1クラスで成り立っている。
普通科コースは毎年クラス替えがあるが、文化コース科は3年間同じクラスで過ごすのだ。
この、普通科コースの1-4組にいるのが、私、アキノモト サエ。苗字が長いため、アッキー、サエと呼ばれることが多い。
しかし、男子とはうまくコミュニケーションとれないため、ほとんどの人にアキノモトさんと呼ばれている。


「ねぇねぇ、ヤマモト君のことはどうなってる?同じクラスだとやっぱりきつくない?」


カオリちゃんが心配そうな目をしながら周りの人達に聞かれないようコソッと喋ってきた。


「ーーん、元々あんまり接点無かったから、凄く避けられるとかないんだよね、」

てか、これ自分で言ってて悲しい、元々仲良くないのに告白したってことじゃん!
もー、やだなーっと思いながら右斜め前の方へ自然と目が向いてしまう。

わたしの好きな人ヤマモト ユウタ君。
男子の皆からヤマさんと呼ばれて慕われている。
女子にも少し呼ばれているが、大体みんなヤマモト君って呼んでるかな?
私もヤマモト君としか呼んだことない。

このヤマモト君は身長170センチでそこまで高くない、
ニコッと笑う時に目尻にシワが寄って可愛いのだ。
女子から人気があるのかな?
爽やかだよねとは聞くけどかっこいいとか好きのような類を聞いたことがない、私としては嬉しいけど!




ヤマモト君との出会いは入学式の席の前後で会ったのだ。
男子の一番あ行から順に座り、最後がヤマモト君、その後ろから女子のあ行からなので、アキノモトのわたしが後ろに座ったのだ。


最初は何も感じなかったんだけど、後ろだからか良くまえの人のクセやら仕草がみえるようになるんだよね。
授業の問題なんかでちょっと分かんないなーってときはシャープペンシルを持ってる右手でポリポリ掻いてるし、
面白いことがあるとニヤッ感じで顔をふせて笑ってる、
あははーって漫画のような笑い方しないんだよね。
一番は、やっぱり笑顔が素敵だよね、
何回か消しゴム落としたときに拾って貰ってお礼を言うと爽やかな笑顔でイエイエって言うの。
そのあと席替えが行われて接点なくなっちゃったけど、目が自然と追っちゃってていつの間にか好きになってたんだ。

そういや、あの告白のときヤマモト君から「何で?俺のどこが良いの?」って聞かれてたな、
あのときちゃんと答えられれば良かったな。

「それは、、、」って言って恥ずかしくて何も言えなかった。

ちゃんと理由言えてたら違ったのかな?
今更だけど。





「さえちゃーん、視線がヤマモト君に釘付けですよ」
その言葉に驚きパッと視線をかおりちゃんにうつした。
かおりちゃんはちょっとニヤニヤしながら私をみてる。
カオリちゃんは小柄でとっても可愛らしい顔をしている。
髪はセミロングで耳下らへんでツインテールにしているのだが、これがまた似合う。
私はどちらかというと男顔だから甘めの顔をしてるカオリちゃんが羨ましい。
ただ、性格はとてもSっ気が強くてそのギャプも良いと男子からも人気があるようだ。


「釘付けではないよ、チラッと見ただけだよ?」
「ま、チラッでもジーッとでもグサッでも良いけどねー」
「いや、グサッは流石に違うでしょ」


私のツッコミが入ったところで6限目のチャイムが鳴り、
ジャッと手を上げで自分の席に戻るカオリちゃん。
6限の数学の教科書を出してなかったため、素早く机の中から取り出し、
ふと視線を感じ周りを見ると、パッと顔を背ける人物が。


いつも見続けてた右斜め前の席、ヤマモト君がこっちを見ていた?
いや、早かったから見てたかどうかも分からないし、
ただ単に後ろの席の人と話し終わって前を向いただけかも。

私が敏感になりすぎてるな。
意識しないようにしなきゃ。