イノセント


「人を殺めたんだったか?」

私が獄に入る3年ほど前に起きた快楽殺人事件の犯人。

ニヤニヤとした顔を私に向ける。

「いいえ、そのようなことはしておりません。

即位を断ったのです。」

「どうして、即位を断ったんだ?」

家に入った泥棒を追い払おうとした際 勢い余って殺めてしまった元少年。

眉毛を八の字に歪めている。

「父上は退位するべきではないと思ったから、かな?

あの頃……今から数年前、私がここに入った年、国は大飢饉に見舞われて 多くの餓死者が出、犯罪件数は鰻登りだった。

諸外国との関係も上手くは行ってなくて 他国からの食糧の援助も望めない。外交に関して 取り残された状態になって居た我が国、また我らが国王 Velumondo様はとても弱気になっておられた。

だからこそ このような考えがVelumondo様の脳裏に浮かんだ。

"今の時代には、付いていけないから 退位しよう" と。

その後のことは私に託そうとして居られんだけれど、そのタイミングで政権交代は得策でないと私は思ったから 断ったんだ。

本当は私だって国王になりたかったんだよ。」

ポカンーとした顔を見せる皆。

我が国では 未だ学問が義務付けられて居らず、貴族の子のみが学校に通い 学問に勤しんでいる。

恐らく、ここに居る殆どが字も書けないだろう。

そんな人達を相手にとってみると分かりにくい言葉を使いすぎてしまったか?

配慮に足りない事をしてしまった。

「Velumondo様の為なら、そう言えば良かったじゃないか。」

マーケットで恒常的に盗みを働き 遂に捕まった彼。

……あの大飢饉、物価が高騰し庶民は買い物もできなくなるほどのものだった。

生きる為に盗みを働くのは仕方のない事だった、でも それは許されることではないらしい。

そのことは理解できている、確かに盗みは良くない。

とは言え、終身刑は重過ぎると思う。それは統治する者から統治される者へと考えが変わってしまったからなのだろうか。

「国王の政策を批判した、と見做され 反逆行為として捉えられたんだ。」

「それにしても酷な話だねぇ。」

「私は 恵まれた環境に生まれ、多くの人から愛されながら育ってきたと思うので……それだけで十分です。」

「でも、もう 死んでしまうんだろう?」

「死はいずれ やって来るものだから……少し早かっただけで……」

本当はまだ、死にたくない。

やり残したことだってたくさんある、……生きていたとしても 今のこの身分では叶わないだろうが。

それでも まだ生きていたい。

本当は即位だってしたかった、国王になりたかった。

今だって 許されるのであれば 国王になりたい。

あの時 即位を断らなければ良かった、毎晩 寝る前にそう思う。

けれど、あの時 私が国王になっていたなら 民の幸せは願えなかった。

あの頃の私には 国王になるまでの度量も器量も無かった。