翌日の午前、地元にある遊園地に来ていた。

「直さ〜ん、早く〜」

天くんは駆け足で入り口の門を通り抜けると、振り向いて手招きした。

「遊園地なんて大学生のときに友達と行った以来だな…」

天くんはぼけっと突っ立っている私を待っていられないらしく、駆け寄って来て、手を引いて歩き出した。

「直さんと遊園地デート〜」

鼻歌を歌いながら、繋いだ手を振って歩く天くん。
私は久々に見る遊園地のカラフルな建物をきょろきょろ見渡していた。

「直さん!あれ!あれ乗りましょう!」
「あれってどれだよ天くん…って、げっ」

天くんが指差した先を見て顔を顰めた。

ジェットコースターだ。

高所恐怖症とまではいかないが、高いところは苦手だ。
ましてや絶叫マシンなんて…。
友達に付き合って仕方なく乗ったことはあるが、正直もう乗りたくないと思っていた。

「まじか…」

乗れるかなぁ…。

ちらりと横目でた天くんの顔を見ると、目を輝かせて、絶叫マシンの大蛇のようなレールを見上げている。

楽しそうな顔してんなぁ…。

乗らないとは言い出しにくくて、黙って一緒に行列に並んだ。

大丈夫、乗れないわけじゃない。
なんとかなるだろ…。


大きい遊園地と違って空いているから、待ち時間もたいしてかからない。
自分たちの順番まであと少しというところで、先発のコースターが帰ってきたのだが…。

おいおいおい!最前列に座ってる中高生の女の子、泣いてんぞ!

きっと一緒に来た友達に付き合って乗ったんだろうな…私は泣きはしなかったが、可哀そうに…。

友達に慰められながら降りて行く女の子を見ていたら、まずい、私まで怖くなってきた…。
いや、本当は最初から怖かったのを誤魔化して並んでいたのだが…。

天くんを見ると、早く乗りたいと言わんばかりに、わくわく、そわそわしている。
子供のようにはしゃぐ様子に、水をさすようで申し訳ないと思いながらも、私は口を切った。

「天くん、私やっぱ無理だわ…悪いけど一人で乗ってくれ…」

天くんが目を丸くする。

「えっ、直さん乗らないですか?そうですか…」

楽しそうにしていた顔が曇って、しゅん、となる天くん。
その様子に胸がちくちく痛む。

そんなに一緒に乗りたかったのか…。

なんか、一人で乗せるのも可哀想な気がするな…。

それに私だって、行列に並んだのに今更出てくのももったいないような気がする…。


仕方ない。腹を括ろう。

「やっぱ乗るわ」
「本当ですか?本当に大丈夫?」
「正直大丈夫かどうか私にもわからん…けど、天くん一人で乗って隣に誰もいないとか、席詰めて知らない人と座ることになったら嫌だろ?まぁ、人見知りとかしなさそうだけどな、君は…」

天くんは何も言わず、まん丸な黒い瞳で私をじっと見つめて、それから笑った。

「へへ、へへへ」
「何を笑ってんのさ…」
「えへへ〜、直さ〜ん」

なぜか抱きつかれた。

そして、いよいよ私達がジェットコースターに乗る順番がやって来た。

二人掛けの座席に天くんと乗り込む。
安全バーを下ろしてから、コースターが徐々に出発する。

「骨は拾ってくれよな…」
「はい!任せてください!」

楽しそうな天くんの声を聞いたその後、絶叫マシンが急加速する。


…そこから先はあまり記憶がない。

覚えているのは久々に大声で叫んだこと、地獄を味わったこと、隣でずっと、ふー!とかほー!とかいう天くんの声がしていたこと…。


地獄のような数分間が終わり、私達を乗せたコースターが速度を落としながら発着場所へ戻る。

コースターから降りた途端、その場にへたり込んだ。
完全に、膝が笑っている…。

「直さん、大丈夫?」

心配した天くんが、しゃがみ込んで、私の顔を覗き込む。

「いけるかと思ったんだけど、やっぱダメだったわ…なんか、こういうの、年々怖くなってる気がする…年かな…」

青ざめた情けない顔をしている私を見て、天くんは微笑んだ。


「直さん、ありがとう。僕のために、怖いの我慢して一緒に乗ってくれたんですよね…やっぱり、直さんは優しいです」


「…楽しかった?」
「はい!直さんと一緒だから、とっても!」
「そりゃよかったよ…」