目が覚めて、ゆっくりとベッドから上体を起こした。
変な夢だったな…。
まだ頭がぼんやりしてる。
あれは一体何だったのか…?
夢は起きている時に見た物や体験の記憶の断片が組み合わさって出来ているという。
映画で見たシーンや小説で読んだ場面のイメージだろうか?
にしてはなんだか妙にリアルだった。
それになんとなく、記憶と言っても自分の記憶じゃないような気がする。
まるで他の誰かの記憶が流れ込んだような…。
虫の知らせ…なんて言葉が頭をよぎって、急に胸騒ぎがする。
あれは男性の手だった。
まずは単身赴任中の父に電話してみよう。
「母さんから聞いたよ、コンビニ強盗だって?無事で本当によかったよ」
電話越しの父の声は普段と変わらず、穏やかで元気そうだった。
「その件ならもう大丈夫。それよりそっちは?体調崩したりしてない?あ、健康診断の結果は?」
「なんともないけど…どうしたんだい急に」
「何もないならいいんだ。よかった。体には気をつけて。それじゃまたね」
父ではないとするなら…あいつか?
少し迷ったが電話することにした。
大学時代の恋人、亜蘭だ。
別れてからお互い一度も電話しなかった。
亜蘭が今どこで何やってるのかも知らない。
番号変わってませんように…。
呼び出し音が鳴って、少ししてから。
「もしもし」
繋がった!
懐かしい、亜蘭の低い声だ。
「あ、もしもし、久しぶり、脇坂、なんだけど」
いざ話し始めると、緊張してきてぎこちなくなってしまう。
「本当に久しぶりだな。どうした?」
亜蘭の方は緊張しないようで、流暢な話し方に、笑顔を浮かべているのが声でわかる。
「いや、どうということもないんだけど、あのさ、亜蘭…元気?」
「え?」
「最近怪我とか病気とかしてない?」
「何もないけど」
「そっか…。よかった…。なら良いんだ」
「俺に元気かどうかきくためだけに電話してきたのか?」
「わっ、悪いかよ…!」
「悪かないけど、残念。ヨリ戻したいって話かと期待したのにな」
「まっっったそういう冗談を…!どうせ新しい彼女いるだろが!」
「半年前に別れた」
「えっ、な、なんかごめん」
「謝るなよ、久しぶりにおまえの声聞けて嬉しいんだから。俺が元気か聞くためだけに電話してくれるヤツなんて世界中で直だけだよ」
「だからからかうなって…」
「喜んでんだよ。おまえは?元気にしてる?」
「私?私は…まあ、元気だよ。色々あるけど、なんとかやってるよ」
コンビニ強盗の件は亜蘭には知らせないでいいや。元気かどうか聞くために電話したんだから余計な心配はかけたくない。
「彼氏は?」
「は?彼氏?」
「そう。新しい彼氏はできたのかって」
「今その話関係なくないかぁ…?」
「近況報告だろ、この電話。それくらいは聞かせろよ」
またおもしろがってるな、こいつ…。
「彼氏っていうか…好きな子はいるよ」
「そいつもおまえのこと好きなの?」
「告白はされたけど…って、私の話はいいんだよ!とにかく怪我とかするなよ!車の運転気をつけろよ!じゃあな!」
「はいはい、またな」
父でも亜蘭でもない。
あれは誰の掌だったんだろう。

