麻美のそんな声に振り返る。
彼女は化学室の隅にある透明の花瓶を不思議そうに指差していた。


「前からこんなのあったっけ?」
「ああ、それは村田先生が…」


化学室の隅っこに置いてある地味な花瓶。
私はずっと前からその存在に気づいてた。
いつもそこには1輪の赤いバラが刺さってること。
そして、それをマメに変えている人の存在も。

「何でバラが1本だけ?花瓶もバラも貧乏くさい」


麻美が花瓶を持ち上げて首を傾げている。
確かにその透明な花瓶はそこそこ大きくて、赤いバラが1本だけ刺さっているのは少し寂しい気がする。

「それ村田先生が毎日水差し替えてるんだよ。枯れたら変えてるし」
「村ちゃんがバラ!?いがーい」