「何を言っても言い訳にしかならないよ。それに…」

先生は少し躊躇ったように言葉を区切って私のほうを見つめた。
その瞳にドキッと心臓が高鳴る。

「あの時矢沢が逃げてくれなかったら、俺自分を制する自信がなかった」
「先生…」
「教師失格だと思った。だから辞めることも自分から言ったんだよ」

教師失格。
そうさせたのは紛れもなく私なのにー。


「教師辞めてどうするの？ 先生にはそれしかないのに」
「はは、それしかって？お前失礼だな」

先生はちょっと無理したように微笑む。

「千葉にある製薬会社で働くつもり」
「製薬会社？」
「前から大学の先輩に誘われてたんだよ。俺の研究してきたことが社会の役に立つような仕事」