「はい、今日のお礼ね。」
サラリと乾いた掌に乗せられた数枚の紙切れ。
その紙切れがわたしの生き甲斐だった。
「ありがとう。」
「次はいつ会える?」
「んー…もう会えないかな。」
「え、なんで?」
「引っ越すんだ。来月、大阪に。」
19才の春、通信制の高校に通っていたわたしは普通の高校生とは一年遅れて学校を卒業した。
それと同時に地元の田舎から大阪へ引っ越し一人暮らしを始めた。
理由は、父親の借金。
そして借金を残し家を出ていった父のせいで鬱病になったお母さんを見たくなかったから。
お母さんをあの男から守るため、わたしは大阪へ引越しお金を稼ぐことにした。
弁護士に頼めば何とかなったことかもしれないが、わたしは敢えてそれを選ばなかった。
「やっぱ、キャバかなあ…」
inOsaka
やっぱ人多すぎ。今日ってなんかイベントあるのっ?ってくらい。
「ねーねー、お姉さん」
駅で道も分からず立ち尽くしていると如何にもスカウトマンに声をかけられる。
金髪ロングにヒールはいて170近い身長。ばっちりメイクに露出の多い服装してればそりゃ声掛けられるよね。
地元にいた時もこんな奴がいたな。
「すみません、今急いでるんで」
道も分からずまま、歩き出す。あんなスカウトマンには絶対雇われたくない。
「お姉さん♪めっちゃ可愛いね!今暇?」
「…すみません今急いでるんで」
あああ、邪魔!てか不動産って何処?前も来たけど忘れちゃった。
あ、この男に聞いてみるか。
「あの、ここの不動産って何処かわかりますか?」
「ん?ああすぐそこだよ!部屋探してるの?大阪の子じゃないの?案内してあげよっか?」
「あ、お願いします。」
男について歩いて数分
「はい、ここだよー」
すぐに不動産が見つかって一安心した。
「ありがとうございます。じゃあ…」
「え!連絡先教えてよ!」
「いいですよ。」
こういうのはサッと教えた方がめんどくさくない。
てか後ですぐブロックすればいいし。
「あの、先月こちらの部屋の仮契約をさせて貰った七瀬何ですけども。」