ずっとキミが好きでした。

一体何年ぶりに明日音くんの部屋に入っただろう。


小学校高学年にもなると、さすがに異性の部屋に入るのは気が引けて入っていなかったはず。


そうするともう五年くらい立ち入っていないことになる。


でも、なんとなく雰囲気は変わっていなかった。


部屋に入れば、明日音くんの部屋だって分かる。


グレープフルーツの匂いが好きな明日音くんの部屋の芳香剤はもちろんグレープフルーツの匂いがするやつで、いまだに変わっていない。


教科書が増えたけれど、ベッド、机、大好きなバンドのポスター、ギターの位置は不動だった。


懐かしく眺めていると「じろじろ見んな!」と怒鳴られた。


変声期を越えた男性の声というのは迫力がある。


幼少期の可愛らしい声を知っている私は、この怒鳴り声にいつもこたえてしまう。


シュンとした私を見かねて、明日音くんが念願のさくらあんぱんにかぶりついた。







「うめーじゃん、これ」







「あ…ありがと」







素直に褒めてもらえたことが嬉しくて、頬が一瞬熱くなった。

 
チョコレートならすぐに溶けてしまいそうなほどに、私の体温は急上昇していた。






「これ食うときは、なんか、いつも翼がいるな」






明日音くんがぼそっと呟いた。


久しぶりに面と向かって会話できそうな雰囲気を逃すまいと、私は必死に記憶の糸を手繰り寄せ、始めてさくらあんぱんを食べた時の話を持ち出した。






「明日音くんが私にTomorrowを教えてくれた日のこと、覚えてる?」






「翼が高橋組に絡まれた時か…」





明日音くんが天井を仰いだ。


思い出は色褪せていなかった。