ずっとキミが好きでした。

「明日音くん、居るんでしょう?今日は出てきてくれないの?」




翌日行くと、明日音くんはまたもぐらに戻っていた。


光が差したのは一瞬だけ。


振り出しに戻ってしまったのかもしれない。







「今日は何も持って来てないし、まだ風邪気味だからもう帰るね。じゃあまた明日。お大事にね~」






「翼」







「…ーーへ?」







耳を疑った。





ドアの向こうから、声が聞こえた。


私の名前を呼んだ。


"翼"って言ってくれた…。





あまりの衝撃に呆然と立ち尽くしていると、いつものようにルーズリーフがドアの隙間を通って私の元に届いた。








『風邪、大丈夫か?』







心配してくれてたんだ…。


一気に体中に血が巡った気がした。


指の先、毛細血管まで血が行き届いて、指先が痺れている。




返事をしなくちゃならないと、急いでシャーペンを取り出し、『大丈夫』とだけ書いて送った。


これでやり取りが終わると思っていると、また「翼」と私の名前を呼ぶ無愛想な声が耳をすり抜けた。


何?と聞き返す前に、明日音くんの声がした。






「明日、さくらあんぱん、作って来て」







始めてのリクエスト。


突然のことに驚いたが、それよりも喜びの方が勝った。






「絶対、作ってくるから!」





私は誰にも見られないことを良いことに、廊下で堂々とガッツポーズした。


久しぶりにちゃんと息が吸えた気がした。