ずっとキミが好きでした。

「明日音くん、今日はりんごのケーキ作ってきたよ。フライパンとホットケーキミックスで作れたんだ!いやあ~、自分でもびっくりだよ。だってフライパンだよ。普通ケーキっていったらさ…」






「翼、今日も来てたんだ」







私が夢中で話しているとみっくんが帰宅してきた。


時計を見ると既に午後7時を回っていた。


思い起こせば今日は部活で新しい組織作りをしていたから、家に帰ってくるのが遅くなってしまったのだった。


ちなみに私は副部長。


新三年生は二人しかいないから、もちろん部長はなっつん。


私がやっても良かったが、なっつんの方が適任だと後輩二人に言われた。


後輩達と同時期に入部し、ドジばかりする私が部長になったのでは部が成り立たないとでも思ったのだろう。


私は後輩達の意見をきちんと受け入れた。




どうでもいいことを思い出していると、みっくんが私の目の前にやってきて視線を落とした。


みっくんの視線の先には保冷バッグがあった。


私が顔を上げ、みっくんの目を見つめた。


瞳の奥から今までに感じたことの無い不思議なオーラが放たれていた。


みっくんは一瞬微笑んだが、その目は笑っていなかった。


ずっと見つめていると吸い込まれそうになる。




私はふっと視線を外した。







「あのさ、翼」








みっくんはまだ私を見ていたが、私は顔を上げられなかった。





ーー何かが動き出す。





そんな気がしていた。






「俺には作ってくれないの?」






私は何も言えなかった。


毎日通っているのに、みっくんの分はきちんと作ったことがなかった。


いつも明日音くんのことを考えて作り、残ったらみっくんにあげれば良いと思っていた。






私は…ーー続く言葉を知っている。







みっくんは口を開かない。



しばらく長い沈黙が続いた。












「私…帰るね」






張り詰められた空気に耐えられなくなった私が、保冷バッグを強く握り締めて踵を返した、











その時だった。













ガチャッ…ーー。












不穏な空気が漂う廊下に、乾いた音が異様に響いた。