ずっとキミが好きでした。

しかし、私の高揚感は徐々に薄れていった。









私がしばらく明日音くんを見ていると、何か感じたことのない違和感を感じた。


注意して聞いてみるとテンポがずれているのだということに気づいた。


メトロノーム機能の付いた、チューナーと呼ばれる小型の機械から、ぴっ、ぴっと規則正しいリズムが流れているが、明らかに遅い瞬間があるのだ。


かと思ったら、急に走り出してギターが先行する時もあった。


もちろんピタリと合う時もあるけれど、それは決まって昔から弾いている曲を弾いている時で、夏祭りで歌った新曲はグダグダなことの方が多い。








…何を言われても構わない。








私はギターが鳴り止むのを待って明日音くんに近づいていった。






「明日音くん」





私が名前を呼んだのに返事がない。





無視しているのか、






それとも…。








「明日音くん!」







さっきより声を張ったのに反応はなかった。


肩を叩いて名前を呼ぶ。






「明日音くん」







「うわっ!びっくりした!」














私は…













泣いた。













不意に左目から涙が一粒こぼれ落ちた。







突然泣き出した私を見てさらに驚いた明日音くんが必死になだめる。





「おい、ばさお何泣いてんだよ!オレ何かしたか?」





本人も気づいているはずだ。





一体いつからこんな風になっていたのだろう。




なんで気づいてあげられなかったのだろう。




どうして今なんだろう。




明日は大事なステージなのに…。


楽しみにしていたのに…。





私は明日をどんな気持ちで迎えれば良いのだろう。







疑問が次々と浮かんで来て、やっとの思いで口にできたのは






「明日頑張ってね」






というたった一言だった。







「翼!!」









明日音くんの声に振り返りたい衝動に駆られたが、全速力で走ることで思いを振り切った。













明日が最後…。













沈みゆく夕日が照らす先で私は笑っているだろうか。


秋の空に浮かぶ雲の白さが私の心を更に黒く染めた。