ずっとキミが好きでした。

クラスごとの装飾をじっくり見て回っていたら、どこからかギターの音が聞こえて来た。


この弾き方を私の耳は覚えていた。






ーー明日音くんだ。







西階段を上った三階に軽音部の部室があるが、メロディーはそこから聞こえてきているわけではなかった。





屋上かもしれない。






直感を信じて来た道をUターンし、東階段を上り、天文部の天体観測以外に使われることのない屋上に足を踏み入れた。







私のカンは








的中した。








屋上の隅っこ、部室から持参して来た椅子に腰を下ろしてギターを奏でていた。









『オレ、リードギター以外考えられねえから』









その言葉を聞いた時、明日音くんらしいなぁと思った。


音楽センスがあるみっくんに負けたくなくて、みっくんより目立てるリードギターを自ら志願したのだ。


基本的に穏やかで争い事が嫌いな性格のみっくんは、弟の言うことを黙って聞き、ベースを担当することになった。


そこに中学生時代の友人の本間くんがピアノ、桐谷くんがドラムとして加わり、バンドが結成された。


一部始終を一番近くで見守っていたはずなのに、私が仲間として認めてもらえることはなかった。




その理由は重々承知していた。


「翼はどうしようもない音痴だな」と初めて明日音くんに歌声を聞かせたときに言われた。


それがショックで田んぼ道を歌いながら帰ると、稲の成長が阻害されるとかなんとか、明日音くんに誹謗中傷され、それ以来歌は極力歌わないようにして来た。




合唱コンクールは歌わなくても良いように指揮者に立候補した。


でも、そもそも音楽センスのカケラもない私にはリズムをとることさえも難しいということに気づき、立候補を翌日に取り止めた。



歌うしかなくなった私を救ってくれたのは、橘ツインだった。


みっくんがピアノで音をとってくれて明日音くんが私と一緒に歌ってくれた。


ピアノの伴奏者だったみっくんが個人練習をしていた時には、明日音くんが代わりにピアノを弾いて私と一緒に歌った。




私は、明日音くんの声が好きだった。




透明感があって、双子なのにみっくんとは違って少しキーは高いし、音域も広い。


それでいて、聞いていると包み込まれるような温かさがあって落ち着く声なんだ。


歌い手として申し分ない人だなと、センスのない私でさえも感じていた。


だから、てっきり自分で歌も演奏もするのだと思っていた。


私にとってはそちらの方がむしろありがたかった。


明日音くんの声で歌を届けて欲しかったし、自分以外の人間が彼らの間に入ってほしくなかった。





でも私は変わった。


変えた、自分の考えを。




明日は、私が私になって初めて彼らの歌を聞く。


新たな気持ちで彼らの紡いだ音楽と向き合える。


そのことに私はワクワクしていた。