ずっとキミが好きでした。

ダンスの練習はみっくんのフォローにより、なんとかみんなに遅れをとらずに進められていた。





ダンスの練習で疲れた時、私はいつも決まって作るものがある。






さくらあんぱんだ。



普通のあんパンでは、どこか物足りなさを感じてしまう。 


桜の季節に花をたくさん摘んで祖母と塩漬けしたものを使い、秋なのにさくらあんぱんを作っている。


祖母は「季節感がないのぉ…」と皮肉を言いながらも、毎回私の手伝いをしてくれる。


祖母の助手だった私が、いつの間にか逆転して主導権を握るようになった。






「よし、出来た!」






「どれどれ…。まあ、美味しそうじゃのぉ。ばあちゃんにも一つくれ」






祖母に一番大きいのをあげると、顔にシワがたくさん出来た。


歯が弱ってきている祖母にはできたてふわふわのが一番良い。


祖母は私の期待を裏切らなかった。





「いやあ~旨い!最高じゃ。トメさんにも明日持って行くわい」





「トメさんのお口に合うと良いけど…。ありがと、ばあちゃん」





祖母は私の頭を何回も何回も撫でてくれた。











昔、祖母は言った。







頭を撫でたら撫でた分だけ良い子になる。


おらは、翼の父ちゃんや母ちゃんがなでてあげられなかった分も撫でてあげるから



ーーと。








祖母の温もりを感じ、私の心はぽかぽかした。






「翼」







「なあに?」






私が首を傾げると祖母はまた顔にシワを増やして笑った。






「トメさんにあげても、一個あまるじゃろ?誰かにあげたらどうじゃ」






「いや、でも…」







残り一個。


誰にあげると言ったら私の中では大問題。


政治家が今年の予算案を検討するのと同じくらい悩ましいことだ。




祖母もこの歳にしてはお茶目だ。


私の代わりに青春を味わった方が良いと思う。





「ばあちゃん、私に意地悪してるね」






祖母はやっぱり笑った。





「翼が女の子らしくなったから、見ているとむず痒くなるんじゃ。大丈夫。ひとまず家に行けば良い。出た方にあげるんじゃ」





祖母は名案を出してくれた。



私は祖母の意見にちゃっかり乗っかって、ひとまずご近所のあの家に向かった。